バイオ実験では、マイクロチューブの中で液体試薬を混合することで、さまざまな反応を進めます。混合方法には、ピペッティングの他、ボルテックスやタッピング、転倒混和などが挙げられます。酵素活性への影響が気になる場面では、比較的穏やかに混合できるピペッティングを選択される方も多いのではないでしょうか。過去のブログではピペッティングのコツを動画にしてご紹介しましたが、実際の実験結果にはどのような影響があるのでしょうか?今回は制限酵素処理についてやってみました。過去ブログのピペッティング動画も合わせてご覧ください。
材料と方法
制限酵素処理するターゲットとして、1042 bpのPCR産物を用意しました。このPCR産物には、制限酵素Hind IIIの認識サイトが1カ所だけあり、正しく処理されれば651 bpと397 bpの2つの断片に切断されるはずです(図1)。

図1. 制限酵素処理実験に用いたDNA
制限酵素の反応液組成は表1の通りです。制限酵素以外の共通部分はまとめて調製し、最後にHind III もしくはNuclease-Free Waterを添加して混合しました(表1)。
Nuclease-Free Water | 15 µL |
Anza 10× Buffer | 2 µL |
PCR 産物 | 2 µL |
Hind III or Nuclease-Free Water | 1 µL |
Total | 20 µL |
制限酵素によるDNA切断について、混合程度による影響を評価するため、4つのピペッティング条件(表2)で混合してから制限酵素処理してみました。表2の「ピペット容量」に調整したピペットを準備し、条件1はHind IIIの代わりにNuclease-Free Waterを使用したネガティブコントロール、条件2はピペッティングでしっかり混ぜる通常条件、条件3は少なすぎる容量で混ぜる条件、そして条件4は全く混ぜなかった場合です。酵素反応を進めるため37℃で15分間処理し、続けて95℃で5分間処理して制限酵素を失活させました。これは、アガロースゲル電気泳動の準備中などに反応が進まないようにするためです。
条件 | 酵素 | ピペット容量 | ピペッティング回数 |
1 | Nuclease-Free Water | 15 µL | 5回 |
2 | Hind III | 15 µL | 5回 |
3 | Hind III | 1 µL | 5回 |
4 | Hind III | NA | 0回 |
制限酵素でDNAが切断されたかどうかの確認は、アガロースゲル電気泳動でDNAのバンドを可視化して断片のサイズから判断しました。電気泳動にはInvitrogen™ E-Gel Power Snap電気泳動システムとInvitrogen™ E-Gel™ EX アガロースゲル(1%)を使用し、サイズマーカーにはInvitrogen™1 Kb Plus DNA Ladder を使用しました。
結果
それでは結果を確認してみましょう。
レーン1は制限酵素Hind IIIを加えないネガティブコントロールのため、PCR産物が切断されておらず1042 bpのDNAのバンドを確認できました。レーン2はHind IIIを加えてしっかり混合した条件ですので、予想された通り651 bpと397 bp程度のDNA断片を確認できました。レーン3は1 µL容量のピペッティング、レーン4はピペッティングを全くしない条件です。どちらのレーンも同様の結果で、上から1042 bp、651 bp、397 bpの3本のバンドが確認できます。意外なことに、全く反応液を混ぜていなくても、Hind IIIによってある程度は651 bpと397 bpのDNA断片へと切断できることが分かりました。これは、Hind IIIを加えて酵素が沈んでいく際にDNAを含む反応液と多少は混ざったり、沈んだ酵素と接するところでDNAと反応したことなどが考えられました。しかし、一番上の1042 bpのバンドは元のPCR産物ですので、かなり切れ残っているということが分かります。やはり、制限酵素処理の場合でも、試薬の総液量の少なくとも半量以上の容量でゆっくり丁寧にピペッティングすることが重要であることをお示しできました。

図2. 制限酵素処理後のアガロースゲル電気泳動の結果
M. サイズマーカー(1 kb Plus DNA Ladder)
1. Hind IIIなし:15 μL容量でピペッティング 5回
2. Hind IIIあり:15 μL容量でピペッティング 5回
3. Hind IIIあり:1 μL容量でピペッティング 5回
4. Hind IIIあり:ピペッティングしない
まとめ
今回は、実際に制限酵素処理を実施し、ピペッティングでの混合が不十分だと実験結果にどのような影響があるのかをやってみました。試薬などを混合する際のピペッティング容量は、少なくとも総液量の半量以上ということを意識して実験に取り組んでいただくと、より正確な実験データを得ていただけるのではないかと思います。
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