シーケンス反応には、蛍光標識ジデオキシヌクレオチド(ダイターミネーター)を用いることで、伸長産物に蛍光が標識されます。シーケンス反応後の反応液中には、使われなかったダイターミネーターが存在します。残存のダイターミネーターが伸長産物とともにキャピラリーに取り込まれると、大きなピーク(Dye Blobピーク)として検出され、その部分のベースコールの精度を低下させます。このため、シーケンス反応後は、未反応のダイターミネーターを取り除く精製が必要となります。
一方で、「サンプル数が多い場合、精製工程は手間と感じる」、「目的領域とDye Blobピークが重ならなければ、精製は不要ですか?」とのお声をいただいたことがありました。そこで、シーケンス反応後、精製せずにそのままジェネティックアナライザでランすると、どのような結果になるか、検証してみました。
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実験
使用試薬
- pGEM -3Zf(+) double stranded DNA Control Template (※)
- -21 M13 Control Primer (※)
- Applied Biosystems™ BigDye™ Terminator v3.1 Cycle Sequencing Kit
※BigDye™ Terminator v3.1 Cycle Sequencing Kitに含まれます。
使用機器
- サーマルサイクラー: Applied Biosystems™ ProFlex™ PCR System
- シーケンサー: Applied Biosystems™ SeqStudio™ Genetic Analyzer
実験
表1、2の条件でシーケンス反応後、伸長産物を精製せずに電気泳動を行いました。電気泳動は、SeqStudio Genetic Analyzerを使用し、MediumSeqの条件で実施しました。
組成 | 量/反応 |
BigDye™ Terminator v3.1 Ready Reaction Mix | 4 µL |
x5 Sequencing Buffer | 2 µL |
pGEM -3Zf(+) DNA Control Template(200 ng/µL) | 1 µL |
-21 M13 Control Primer(0.8 pmol/µL) | 4 µL |
脱イオン水 | 9 µL |
全量 | 20 µL |
ステップ | |||||
ホールド | 25 サイクル | ホールド | |||
温度 | 96℃ | 96℃ | 50℃ | 60℃ | 4℃ |
時間 | 60秒 | 10秒 | 5秒 | 75秒 | ∞ |
結果
得られたRawデータを図1に示します。シーケンス産物のピークよりも大きなシグナル強度で、4つのピークがみられ(図1(a) 矢印)、ピーク位置は、~65、65~90、90~120、280~310 baseでした。これら4つのピークより低いシグナル強度の、ブロードなピークも複数観察されました(図1(b) 点線枠内)。これらはいずれも、未反応のダイターミネーターに由来すると考えられます。

図1 未精製シーケンス産物のRawデータ
(a) 縦軸最大値 32000 RFU、(b) 縦軸最大値 1200 RFU
Quality Value(QV)は、塩基当たりのベースコール精度の指標となる値で、図2では、エレクトロフェログラムの上にQVバーとして表示されています。QVバーが高いほどQVの値が高いことを示しており、図2では、バーが青色の塩基は、良好な精度でベースコールできていることを示します。シーケンス反応後、精製せずに泳動を行うと、前述の大きなピークの所に加え、複数のブロードピークの箇所で、広範囲にわたりベースコールの精度が悪化しました(図2 (a))。比較データとして、表1、2の条件でシーケンス反応後、Applied Biosystems™ BigDye XTerminator™ Purification Kitにより精製した場合のデータを図2 (b)に示します。エレクトロフェログラムの上には青色のQVバーが連続しており、良好な精度でベースコールされたことが確認できました。

図2 シーケンス産物のエレクトロフェログラム(0-390 bp)
(a) 未精製、(b) BigDye XTerminator精製
まとめ
今回は、SeqStudio Genetic Analyzerにて、シーケンス反応産物を精製せずに泳動し、シーケンス結果への影響を検証しました。得られたエレクトロフェログラムには、4つの大きなピークとともに、これらよりも低いシグナル強度のブロードなピークが複数みられ、広範囲にわたりベースコールの精度が悪化することが分かりました。今回の結果から、シーケンス反応後の精製工程を省略すると、目的領域の解析結果へ影響する恐れがあると考えられます。より良いシーケンス解析結果を得るためにも、シーケンス反応後は精製を行っていただくことをお勧めします。
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