近年、細胞生物学分野のさまざまな研究は、数々の病態に対する新しい治療法の開発に重要な技術として更なる注目を集めています。弊社の細胞イメージアナライザーは、細胞撮影画像から各種情報を数値化することにより、定量的で客観的な細胞解析(HCA/HCS)を可能とする測定機器です。今回は、神経毒性の検出を神経突起の伸長度を測定することにより評価し、従来法と比較した結果をご紹介いたします。
はじめに
アルツハイマー病は、1907年にドイツのアルツハイマーによって報告された認知症の代表的な病気で、脳中の記憶に関係する海馬、頭頂葉、側頭葉などにいくつかの変性タンパク質が蓄積することによって、最終的に神経細胞が破壊されていく病気です。2050年までに、約1600万人のアメリカ人が、アルツハイマー病、および同様の疾病で1年当たり約1000億ドルもの介護費用が必要になるという試算もあり、現代社会にも大きな影響を与える病気です(1)。 アルツハイマー病は、変異β-アミロイドタンパク(Aβ)の神経細胞への沈着、神経原線維変化、そして神経細胞の脱落(神経細胞死)と進んでいくことが明らかになってきました。これまでに、変異β-アミロイド、特にβ-アミロイド1-40ペプチドの生成沈着を防ぐことが治療法として注目されていますが(2)、神経毒性を与えるアミロイドなどのタンパク質が神経細胞自体に与える微細な変化の検出は困難でした。
このような初代神経細胞、神経細胞株および混合培養の微細な変化を評価するものとして、弊社は神経細胞の形を認識し、形態の変化を評価するBioApplication(解析アルゴリズム)「Neuronal Profiling」を作成しました。ここでは、エラン株式会社のマイケル・ボーヴァ博士らが行った、従来のAlamarBlueによる神経細胞生死判定法と、弊社細胞イメージアナライザーArrayScan™と「Neuronal Profiling」BioApplicationを用いた神経細胞形態評価の比較について記します。
AlamarBlueによる神経細胞生死判定法
AlamarBlueの試験結果を図1に示しました(細胞の処理方法は図1説明参照)。この結果から、AlamarBlue試験では、低濃度のβ-アミロイド (0-10μM Aβ)では、処理後1日、2日の期間(図1中1DOTおよび2DOT)ではコントロールと比較して、大きな変化は見られませんでした。また、処理後1日目では、高濃度のβ-アミロイド(10-20μM Aβ)で処理されたサンプルにも生存率の変化はみられませんでしたが、処理後2日目、3日目では生存率の大幅な低下が検出されています。

図1 Alamar Blue染色による神経細胞の生存率判定。ヒト大脳皮質神経細胞の初代培養をポリDリジンコーティング96ウェルプレートに25,000-50,000cell/wellで播種し、1μMの原繊維性β-アミロイド1-40ペプチドを1時間暴露しました。さらに培地交換後、5、10、15、20μMの可溶性β-アミロイドを加えた培地で1、2および3日間(1DOT,2DOTおよび3DOT)培養しました。培養後の細胞を固定せずAlamarBlue染色し、未処理の細胞を100%としたときの生存率を縦軸に、β-アミロイド投与量を横軸に示しています。
細胞イメージアナライザーを用いた神経細胞形態評価
細胞イメージアナライザーで取得した画像を解析し、それぞれの神経突起を「Neuronal Profiling」BioApplicationを使って認識・数値化した際の画像を図2に、解析した数値を図3に示しました。撮影された神経細胞一つ一つから、神経突起の本数、平均長、総面積、最長突起長、分岐点数、交点数などを数値化し、数値をウェルごと、視野ごとにまとめ、Total 、Average値などを算出することが可能となります。多くの数値情報から、研究者らは細胞ごとの神経突起平均長、分岐点数および分岐点をもつ神経突起の最長突起長および細胞体から分岐点までの平均距離の数値が、未処理細胞と比較して、処理後1日(1DOT)から容量依存的に変化を観察できることを見出しました(図3)。

図2 ヒト大脳皮質神経細胞の蛍光顕微鏡画像。A) β-アミロイド処理後の細胞を、hoechst33342で核染色を、ヒトB3チューブリンを抗体染色(FITC)、β-アミロイドを抗体染色(TRITC)し、細胞イメージアナライザーで撮影しました。表示画像はチューブリン(FITC)の蛍光画像です。 B)取得した画像を「Neuronal Profiling」BioApplicationを用いて解析した画像。「Neuronal Profiling」BioApplicationによって、画像から得られる各細胞の輪郭をトレースし、形状から細胞体および神経突起を別々に認識、それぞれについて多種の測定数値を取得、解析計算することが可能となります。各色の線は、認識された神経突起をマーキングしています。細胞の処理条件は図1と同様です。

図3 従来のAlamarBlueによる神経細胞生死判定法と、当社細胞イメージアナライザーArrayScan+「Neuronal Profiling」BioApplicationを用いた神経細胞形態評価の比較。AlamarBlueの試験結果(Alamar Blue)および、「Neuronal Profiling」BioApplicationを使って認識・数値化した、神経突起平均長(Neurite AvgLength)、分岐点数(BranchPointAvgCount)、分岐点をもつ神経突起の最長突起長(NueriteMaxLengthWithBranches)そして細胞体から分岐点までの平均距離(BranchPointAvgDistFromCellBody)を、未処理細胞を100%としたときの変化率として計算し、同一グラフに表示しました。データはいずれも処理後1日(1DOT)のものです。変化率を縦軸に、β-アミロイド投与量を横軸に示しています。実験条件は図1と同様です。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
ヒト大脳皮質神経初代培養細胞を用いた、β-アミロイド投与実験において、従来のAlamarBlueによる神経細胞生死判定法では、高濃度のβ-アミロイド投与によっても、投薬の影響は処理後2日(2DOT)からしか観察はできませんでしたが、細胞イメージアナライザーを用いた神経細胞形態による評価では、処理後1日(1DOT)から容量依存的に変化を観察することが可能となりました。細胞イメージアナライザーを用いた神経細胞の評価は、今まで標準的に用いられてきた神経細胞生死判定法よりも短時間で影響を観察できる評価系として有効であることが示されました。
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参考文献
(1) 2015 Alzheimer’s Disease Facts and Figures
(2) Wogulis, M, et al. “Nucleation-Dependent Polymerization is an Essential Component of Amyloid-Mediated Neuronal Cell Death.” Neurobiology of Disease. 25(5): 1071-1080.
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