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デジタルPCRとは?
従来のリアルタイムPCRは、パワフルで感度の高い遺伝子解析技術として、幅広いアプリケーションで使用されてきました。増幅反応が完了してからデータを収集する従来のエンドポイントPCR法では、核酸の開始濃度を測定することができません。一方、リアルタイムPCRはその名が示すとおり、PCR増幅をリアルタイムで測定します。リアルタイムPCRの登場は、PCRベースのDNAおよびRNA定量を一変させました。
デジタルPCRは、これまでにないアプローチで核酸の検出・定量を行い、統計的手法をとおして分子の絶対数を推量します。この技術は、各サンプル中の核酸の初期量を測定する際に、増幅サイクル数に依存することなく絶対定量やレアな対立遺伝子の検出を行い、従来のリアルタイムPCRとは異なるアプローチを提供します。
デジタルPCR | リアルタイムPCR | 従来のPCR | |
概要 | 微細なウェルに分配しPCRを行うことでネガティブウェルの反応の割合を測定し絶対数を定量 | PCRによる核酸の増幅量をリアルタイムに測定し、増幅率に基づいて定量 | PCRによる増幅終了時のPCR産物の量を測定 |
定量的? | はい – ネガティブ反応の割合をポアソン統計アルゴリズムに合わせて定量 | はい – PCR産物の量がテンプレート核酸の量に正比例する、PCRの指数増殖フェーズ中にデータを収集 | いいえ – しかし、増幅されたPCR産物と既知濃度のスタンダードをゲル上で比較することで、半定量的な測定が可能 |
アプリケーション |
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メリット |
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デジタルPCRの原理
従来のエンドポイントPCRはプラトーな状態で測定しますが、反応速度のばらつきによって結果にもばらつきが生じます。リアルタイムPCRはより正確な定量のために指数フェーズで測定します。これらに対して、デジタルPCRはサンプルに含まれる個々の分子の数をカウントして絶対定量を行います。
デジタルPCRでは、多数のウェルにDNAやcDNAサンプルを分配して、個々のウェルで同時並行にエンドポイントPCRを行います。1つあるいは複数のターゲット分子を含むウェルもあれば、ターゲット分子を全く含まないウェルが存在します。PCR終了後にウェル毎にPCR増幅の有無を解析し、増幅があったウェルはターゲット分子が入っていたポジティブ反応として、増幅がなかったウェルはターゲットを含まないネガティブ反応として数をカウントします。
マイクロアレイ流体プレートは簡便でシンプルな仕組みで何千ものPCR反応を同時並行で行うことができます。各ウェルにサンプル混合液やマスターミックスが分配され、個々にエンドポイントPCRが行われます。
PCR後に各ウェルのシグナルの有無を検出し、ネガティブ反応の割合を基に、サンプル中のターゲット分子の絶対定量を行います。スタンダードやコントロールサンプルとの比較は必要ありません。
サンプル中のターゲット分子はランダムに分配されるため、ポジティブ反応とされたウェルに、1分子のみ分配されたという確証はありません。そこで、ターゲット配列の分子が複数分配された可能性のあるウェルを算出するため、ポアソンモデルを用いて、補正係数を適用しテンプレートの絶対数を算出します。

図1 デジタルPCRの原理。デジタルPCRを実施する際には、核酸の混合物を、あるウェルは1個のターゲット分子を含む一方、他のウェルにはターゲットを含まない程度に多数の反応ウェルに分配します。各反応液で通常のPCRを実施し、ターゲット分子を含まないウェルを同定します。標準的な統計モデルで補正計算を行い最終的な濃度の値を得ることができます。デジタルPCRではコピー数の定量にCt値を使用しないので、絶対定量において既知のスタンダードとの比較が不要となります。
ポアソンモデルを適用するには、少なくとも1つのネガティブ反応(ターゲット分子を含まないウェル)が必要です。ポアソンモデルは、コピー数が1つのウェルにゼロ、1、2あるいは3コピー入る場合の確率を表します。ポワソンモデルより複数のターゲット分子を含む反応を補正し、サンプル中に含まれる正しいターゲット分子の数を算出します。サンプルの分配とポアソン統計データ解析の組み合わせによって、従来のエンドポイントPCRやリアルタイムPCR法よりも高い定量精度を実現します。
ポアソンモデルを使用するときに、最も重要なのはネガティブ反応数です(上図の96ウェルプレートの結果参照)。ネガティブ反応数に基づいて、オリジナルのサンプル中のDNA分子の数を定量し、PCR解析後のポジティブ反応とネガティブ反応の比率を定めます。
デジタルPCRは、レアな変異の検出、コピー数多型(CNV)解析、レアな遺伝子発現解析など、初期の核酸量が少ない場合の検出や、より高い精度でサンプル間のターゲット量の比較が必要とされるアプリケーションに適しています。

図3 デジタルPCRは1ウェルあたり1.6コピーのときに最大限の精度が得られます。本グラフは、20,000(緑)、12.000(青)および3,000(赤)ウェルを用いてデジタルPCRを行った場合の到達する精度を示します。X軸はネガティブ反応の割合を示し(グラフ中の縦線は20.32%を示す)、Y軸は精度(信頼区間95%)を示します。最高の精度は、ネガティブ反応が20%、ポジティブ反応が80%で生じます。青および緑のラインを見ると、20,000ウェル、および12,000ウェルにおいて、ネガティブ反応は5から90%の間で精度は一定しています。これがデジタルPCRで解析する理想的なサンプル濃度の範囲です(例えば、15μLの反応液を20,000ウェルに分配して、1ウェルあたり1コピーになる濃度)。一方両極においては、精度は急激に落ちます。
高い精度と再現性を実現するデジタルPCR
アプリケーションの話に入る前に、ここでデジタルPCRの精度と再現性を示すデータをご紹介します。
左のグラフは、絶対定量において、他の手法と比較したデジタルPCRの精度を示しています。右のグラフは、4人の別々のユーザーが1人10個、計40個のチップに同じサンプルをローディングした測定結果を示しています。グラフからわかるように、4人別々のユーザーであっても基本的に同じ結果を得ることができました(図4)。
幅広いアプリケーションに対応するデジタルPCR
デジタルPCRは、レアな変異の検出、遺伝子発現の絶対定量、ウイルスの力価測定、次世代シーケンサのライブラリー定量、核酸スタンダードの作製、混合物の濃縮と分離に適しています。
具体的な絶対定量アプリケーション
- 遺伝子治療におけるウイルス力価の正確な測定 – AAVベクター、細菌汚染、および宿主細胞の残留DNAの正確な定量が可能
- デジタルPCRを使用した下水サーベイランス – 下水サンプルからのウイルス絶対定量
- コピー数多型(CNV) – コピー数のわずかな違いを高精度で検出・定量
- 次世代シーケンサ(NGS)のライブラリー定量 – リファレンスサンプルがなくてもNGSライブラリーの絶対定量やシーケンス後の結果を検証
- ウイルス量の定量 – バクテリアやウイルス量の絶対定量、病原菌の絶対数カウント
具体的な対立遺伝子検出アプリケーション
- デジタルPCRを用いた変異検出 – がん研究や臨床サンプルなどの少量のサンプルを用いたレアな変異の検出・定量
- 高感度なGMO検出 – 植物の変異や遺伝子組み換え生物の高感度な検出・絶対定量
まとめ
デジタルPCRのメリットを簡単にまとめてみましょう。まず、デジタルPCRは絶対定量を行う仕組みを提供します。これにより、標準曲線を必要とせず、サンプル中の分子の数を判断できます。これは、リファレンスサンプルを用意できないサンプルの遺伝子発現解析において特に有用です。
2つ目として、デジタルPCRは、正常サンプル中にわずかに含まれる変異遺伝子の希少な分子を同定できます。例えば、FFPE切片の腫瘍サンプルにおけるプロトオンコジーンの変異対立遺伝子、骨髄移植サンプルにおけるキメラ、循環血中遊離DNA(cfDNA)における発がん性変異の検出などが挙げられます。
最後に、環境下に存在するSDSやヘパリンといったPCR阻害物質はPCR効率に影響を与えることがありますが、デジタルPCRはエンドポイントPCR反応のため、リアルタイムPCRよりも阻害物質に対して耐性があります。これは、環境サンプルや貴重ながんサンプルを扱う研究室にとっては、特に重要なポイントです。
デジタルPCRについてさらに詳しく
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