現在、さまざまな分野で遺伝子解析技術が取り入れられています。
遺伝子解析技術は、疾患に関わる診断、個人識別、感染症検査(病原体/ウイルスの検出)、遺伝子組み換え作物(GMO)検査など多くの分野で採用され、その有用性も広く認められています。こうした遺伝子解析技術の多くは、スタートサンプルから分解の少ないDNAを高収量/高純度で回収することが重要で、DNAの質が解析の精度や感度などのパフォーマンスに影響を与えることが分かっています。
そのためDNA精製では、スタートサンプルの性質をしっかりと理解し、サンプルに適したDNA精製システムを選択することが重要です。さらには処理するサンプル数に応じた処理能力を持つシステムを選択することも解析プロセスの効率化に重要です。
サーモフィッシャーサイエンティフィックは幅広いタイプのスタートサンプルから高収量/高純度でスケーラブルな精製を行えるよう、マニュアル操作および自動化操作に対応したDNA精製システムを提供しています。ここではスタートサンプルのタイプと処理能力にフォーカスしたDNA精製システムの選択のポイントを説明し、ご実験に最も適した精製キットを提案します。
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どのようなDNA精製システムがあるかを知ろう
Organic抽出法、スピンカラム法、磁性ビーズ法の選択のポイント
DNAの精製には大きくOrganic抽出法、スピンカラム法、磁性ビーズ法の3つの方法が利用されています(表1)。DNA精製を成功させるためには、精製システムを、サンプルのタイプ、スタートのサンプル量、処理するサンプル数などを配慮し、適切に選択することが重要です。
表1. DNA精製システムの特徴
Organic抽出法は溶解条件などを細かく配慮しながら最適化ができるため、DNA精製が難しいサンプルに使用されることが多いです。スタートサンプル量が多い場合でもフレキシブルに対応できますが、アルコール沈殿のステップがあり操作が煩雑なため、1回に処理できるサンプル数が限られます。
スピンカラム法は、多くのキットが市販されていることもあり、多くの研究者に使用されています。最適化されたプロトコールが用意されているため操作も簡単ですが、一度に多くのサンプルを処理する場合、操作が煩雑になりクロスコンタミネーションなどのトラブルが生じやすくなる傾向があります。1日の処理サンプル数が24を超える場合は自動化システムの導入検討をお薦めしています。
磁性ビーズ法は、自動化システムに適しています。大量のサンプル精製における操作のばらつきや人為的なミスを排除し、均一な結果を得ることができます。弊社のApplied Biosystems™ MagMAX™ DNA精製システムは、自動化機器であるThermo Scientific™ KingFisher™シリーズとの組み合わせで最高レベルのパフォーマンスを提供しています。
DNAの精製を行う場合の重要なポイントとして、スタートサンプルのタイプによる難易性を十分に理解する必要があります。たとえば、全血や植物のような夾雑物質の多いサンプルでは夾雑成分の効果的な除去がもっとも重要です。Cell-free DNAやウイルス由来のDNA/RNAの精製では、サンプル中の核酸量が非常に少ないため操作に伴うロスを最小限に抑えることが重要です。またFFPEサンプルでは細胞内のDNA/RNAが既に変性されている上、低分子化が進んでいるため、化学修飾を効率よく除き、分解の進んだ低分子のDNA/RNAも効率よく回収するキットを選択しなければいけません。こうしたサンプル特有の性質を理解し、スタートサンプルに最適化された精製キットを選択することも大変重要です(図1)。
図1. サンプル別 DNA精製キットの選択ガイド
このように処理するサンプルのタイプ、サンプル数などを配慮し、適切な精製システムおよび精製キットを選択することがDNA精製の成功の鍵となります。
Organic抽出法を用いたゲノムDNAの精製
Organic抽出法は古くから利用されてきたDNA抽出手法で、組織/細胞などのサンプルをOrganicベースの溶液中で溶解した後、アルコール沈殿でDNAをペレット化させて回収する方法です。
Invitrogen™ DNAzol™ Reagent はOrganic抽出法をベースとしていますが、フェノール/クロロホルムなどを使用せず、グアニジン塩/界面活性剤からなるReagentで組織・細胞などをホモジナイズします。Proteinase Kのようなタンパク分解酵素による溶解ではなく、Reagent中での物理的な破砕でサンプルをホモジナイズするようにデザインされているので、サンプルのタイプに合わせて処理できます。培養細胞を用いる場合はピペッティング処理で迅速にライセートを調製 できますが、組織サンプルでは組織の硬固のレベルによりホモジナイズの強度を調整できます 。脳組織や脾臓組織などの柔らかい組織は細かくカットし、ピペッティングで溶解することができますが、繊維組織などの硬固な組織ではガラステフロンホモジナイザーなどの機器を組み合わせ、硬固のレベルに合わせて処理強度を変えて処理するため、サンプルに合わせて丁寧に処理ができます。またライセート中のRNAは加水分解されるようにデザインされていますのでRNase処理が不要です。ライセートにエタノールを添加してDNAを沈殿後、エタノールでペレットを洗浄後、風乾したDNAペレットをNuclease-free waterまたは8 mM-NaOHに溶解します(図2)。
図2. DNAzol Reagentの操作概要
二次代謝産物を多く含む植物サンプル用のInvitrogen™ Plant DNAzol™ Reagentは、植物組織を液体窒素で粉砕してからPlant DNAzol Reagentを用いてDNAを抽出します。植物サンプルではクロロホルムによる抽出ステップが追加されています。Invitrogen™ DNAzol™ BD Reagentは全血サンプル専用に最適化された試薬です。DNAzolシリーズはさまざまなサンプルに利用できます。特に溶解効率の高いLysis bufferを採用しているため、スピンカラム法では困難であったサンプルからでもDNAが回収できるケースが多くあります。
表2. DNAzolシリーズの選択ガイド
スピンカラム法を用いたゲノムDNA精製
スピンカラム法は、固相抽出技術を利用し、シリカまたはガラスファイバーのフィルターメンブレンにDNAを結合させ、精製/分離を行う方法です。操作には熟練したテクニックが必要なく、一般的な研究室の設備で操作が行えるため、広く使用されているテクニックです。
Invitrogen™ PureLink™シリーズは、サンプルをProteinase Kで消化溶解した後、シリカメンブレンへDNAを吸着できるように、Buffer/エタノールをライセートに添加して整えます。スピンカラムにセットされたシリカメンブレンに溶液を遠心処理によって通過させることにより、DNAのシリカへの結合/洗浄/溶出を行います(図3)。
図3. PureLink シリーズの操作概要
スピンカラム法はさまざまなサンプルで利用可能ですが、サンプルのタイプによって溶解条件や結合条件が異なってくるため、使用するサンプルに最適化されたキットを選択してください(表3)。
表3. PureLink シリーズの選択ガイド
磁性ビーズ法を用いたゲノムDNAの精製
磁性ビーズ法はスピンカラム法で採用されているシリカを磁性ビーズ表面にコーティングし、同様の結合原理でビーズ表面にDNAを結合するようにデザインされています。DNAが結合したまま磁性ビーズはマグネットに集積できるため、洗浄 バッファーや溶出bufferの交換/回収は遠心操作を行わずに処理できます(図4)。
図4 MagMaxシリーズの操作概要
またスピンカラムでは遠心操作の際にサンプルがメンブレンを通過する一瞬の間にDNAを結合/洗浄しますが、磁性ビーズ法ではDNAとビーズは一定時間バッファー中でミックスしながらインキュベートされるため、回収効率/精製効率ともにカラムより優れています。特に血清、血漿などの無細胞体液などの微量な核酸しか存在しないサンプルからのDNAの精製に適しています。
また磁性ビーズ法の特徴として自動化システムに適している点も挙げられます。Applied Biosystems™ MagMAX™シリーズのDNA精製システムのほとんどは、自動化機器のThermo Scientific™ KingFisher™シリーズ(図5)に最適化され 、Ready-to-useのプログラムがキットおよびサンプルタイプごとに作成済みになっており、簡単な設定で大量のサンプルを処理できます(表4)。
図5. MagMaxシリーズに適した自動精製機器 KingFihserシリーズ
表4. MagMaxシリーズの選択ガイド
まとめ
PCRや次世代シーケンス(NGS)の技術の進歩により、綿棒に付着したほんのわずかなDNAから全ゲノムの情報解析が可能となり、さらには数十年前に作成したFFPE標本サンプルや、特に夾雑物が多く含まれている土壌サンプル由来のDNAについても、遺伝子解析に活用できるようになっています。そのためDNA精製が難しいと思われるサンプルであればあるほど、適切な精製技術を選択することは解析精度にインパクトのある改善をもたらすことが期待できます。標的サンプルの質を十分に理解し、DNA精製キットを選択してください。
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