はじめに
酵素はボルテックス厳禁というイメージをお持ちの方は多いのではないでしょうか。酵素の失活を防ぐため、酵素が含まれる試薬は穏やかな混合が推奨されていることが多いです。今回は逆転写酵素をあえて過激なスピードでボルテックスし、どれくらい影響が出るのかやってみました!
材料と方法
材料:
・RNAサンプル(HEK293細胞からInvitrogen™ PureLink™ RNA mini kitで精製したtotal RNA 500 ng/tube)
・Applied Biosystems™ SuperScript™ IV VILO™ Master Mix(逆転写試薬①)
・Applied Biosystems™ High-Capacity RNA-to-cDNA™ Kit(逆転写試薬②)
・Applied Biosystems™ TaqMan™ Fast Advanced Master Mix(リアルタイムPCR試薬)
・Applied Biosystems™ TaqMan Gene Expression Assays(Beta catenin)
方法:
・逆転写試薬とRNAサンプルを混合した後ボルテックスを掛け、Applied Biosystems™ ProFlex™ PCR Systemで逆転写反応を行う。
・ボルテックス条件
3000 rpm(最大出力)で3秒、30秒、ボルテックス無しの3種類。
ボルテックス無し:全体の半量のボリュームで20回ピペッティング
使用ボルテックス:Fisher Scientific™ センサー式ボルテックスミキサー(FB15013)
ボルテックスはあらかじめ動かしておきトップスピードの状態から混合開始
逆転写効率の評価方法:
・リアルタイムPCR(Applied Biosystems™ StepOnePlus™ Real-Time PCR Systems)で測定
・リアルタイムPCRの試薬調製時も逆転写と同条件のボルテックスを掛け影響を確認
結果
まずは、SuperScript IV VILO Master Mixでの結果を見てみましょう。
SuperScript IV VILO Master Mixで逆転写したサンプルはボルテックスの有無に関わらずほぼ同じCT値になり、ボルテックスによる逆転写効率への影響はみられませんでした(図1、図3)。
次に、High-Capacity RNA-to-cDNA Kitの結果を見てみましょう。
こちらは逆転写時のボルテックスによるCT値の差が確認されました。
ボルテックス無しを基準にしたとき、3秒のボルテックスでCT値が約0.25、30秒では0.57上昇しており、ボルテックス時間が長くなるほどCT値が上昇しています(図2、表1)。
CT値は「2の何乗」という単純な計算でおおよその相対比を出すことができますが、3秒のボルテックスでは20.25 ≒1.2倍(およそ16%減少)、30秒のボルテックスでは20.57 ≒1.5倍(およそ30%減少)の差となり、これは逆転写試薬調製時のボルテックスで逆転写酵素の活性が低下したことによってcDNA量に差が生じていることを表しています(表1)。
リアルタイムPCRの酵素はどうでしょうか。
TaqMan Fast Advanced Master Mixでも逆転写と同じようにボルテックスを掛けてみましたが、こちらはボルテックスによるCT値の差はみられませんでした(図3、表1)。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
今回の実験ではあえて過激なスピードで逆転写酵素をボルテックスしてみましたが、逆転写試薬によってボルテックスの影響に違いが出る結果となりました。
試薬の種類によって、ボルテックスの影響を受けるものと、ほとんど受けないものがありました。今回は2種類の試薬で検証しましたが、さらにボルテックスの影響を受ける試薬もあると推測されます。試薬を扱う際はプロトコルに従って適切な方法でしっかり混合し使用しましょう。
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