樹脂などの身近な材料の劣化は様々な要因で起こり、紫外線はその要因の最たるものに挙げられます。紫外線による劣化が進む際、環境の違いが劣化の進行にどのような影響を及ぼすのかを調べるため、紫外線を照射し強制的に劣化を進行させた樹脂についてFT-IRを用いた分析を試みました。
実験
サンプルにはポリエチレン(PE)板を用いました。UV照射装置を用いポリエチレン板に紫外線を累計8時間照射しました。この際、UV照射条件として、「① 大気(そのままの状態)」、「② 大気+水(サンプル表面に水を滴下した状態)」、「③ カバーガラス(カバーガラスをUV照射面にかぶせた状態)」の3種類の条件を設定しました。図1に各条件の概略図を示します。

図1:UV照射条件の概略図
30分毎に一旦照射を中断しFT-IRによるUV照射面のATR測定を行いました。測定後再度照射を再開し計8時間のUV照射を行いました。
サンプル外観の時間変化
「①大気」、「②大気+水」の条件でUV照射したポリエチレン板については、UV照射1時間を経過する頃から黄変がみられました(図2)。

図2: UV照射によるサンプル外観の時間変化
赤外スペクトルの時間変化
UV照射開始から8時間後までの赤外スペクトル変化について確認したところ、UV照射条件「①大気」および「②大気+水」においては、1714 cm-1付近のC=O由来ピーク、1066 cm-1付近のC-O由来ピークが出現し増加する様子が見られました。これらは、ポリエチレンが酸化され、構造変化が起こったことを示唆しています。また、910 cm-1付近にC=C-H由来ピークが出現する様子も確認されました。一方、「③ カバーガラス」については、UV照射8時間後まで赤外スペクトルに変化は見られず、酸化劣化が起こっていないことがわかりました。

図3:条件「①大気」の場合のUV照射開始から8時間後までの赤外スペクトル変化
UV照射条件「①大気」および「②大気+水」の、1714 cm-1付近のC=O由来ピーク高さ、1066 cm-1付近のC-O由来ピーク高さの時間変化プロファイルを見ると時間とともに増加している様子が見られました。また、「②大気+水」条件の方が増加の程度がより大きいことがわかりました。このことから、酸化の進行は「②大気+水」条件でより顕著であると考えられます。
さらに、910 cm-1付近のC=C-H由来ピーク高さの時間変化を確認したところ、こちらも「①大気」および「②大気+水」の2条件で増加する傾向が見られますが、UV照射直後から200分頃までは一定の割合で順調に増加し、250分を過ぎたあたりから増加が鈍化、ほぼ横ばい状態となる様子が見られました。
ここで、再度C=OやC-Oのプロファイルを確認すると、200分頃までは、増加の程度がごくわずかで、200分を過ぎた辺りから、急激な増加に転じていることが見て取れます。910 cm-1付近のC=C-H由来ピーク高さの増え方と合わせて考えると、UV照射によりまずC=C-H構造ができ、これに酸素原子(O)が結合することで、C=O、C-O構造が生成、これによりC=C-H構造が消費されていることが推定されます。

図4:1714、1066、910cm-1ピーク高さの時間変化プロファイル
まとめ
紫外線(UV)照射の条件を変え、ポリエチレンの劣化について、FT-IRを用いた追跡評価を行いました。条件により、構造変化の進み方に違いが見られ、段階的な構造変化が起きていると推定できる様子も確認されました。
関連情報
1 アプリケーションノート FT-IRおよびラマンを用いた身近な材料の劣化評価
2 関連製品Webページ→ Nicolet FT-IR 装置
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