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はじめに
不死化細胞培養系の細胞は、遺伝的浮動を起こしやすく、有限寿命細胞系には老化が必ず訪れます。確立した細胞系は貴重な資源であり、再構築には多大な費用と時間がかかるため、細胞系を凍結し、長期保存用に保管しておくことがきわめて重要です。
継代によって、少量でも余分な細胞が入手可能となった場合には、直ちにシードストックとして凍結し、一般の実験には使用しないようにして保管することが必要です。この凍結したシードストックを用いて、使用ストックを調製、補充することが可能です。シードストックが枯渇した場合には、この凍結した使用ストックを用いることにより、初回の凍結からの世代数の増加を最小限に抑えた新しいシードストックを調製できます。
培養細胞を凍結保存する最良の方法は、ジメチルスルホキシド(DMSO)などの凍結保護試薬の存在下、完全培地中で、液体窒素中に保存する方法です。凍結保護試薬により、培地の凍結温度が低下するのと同時に冷却速度も低下し、細胞の損傷や細胞死を引き起こす氷晶の形成の危険性が大幅に低減します。
注意: DMSOは、有機分子の組織への取り込みを促進することが知られています。DMSOを含む試薬の取り扱いには、このような物質による危害に適応した装置および手順を使用してください。試薬は、地域の規制に従って廃棄してください。
培養細胞の凍結
凍結保存のガイドライン
細胞系を将来の研究用に凍結保存するためには、下記のガイドラインに従うことが重要です。細胞培養における他の操作の手順と同様に、最良の結果を得るためには、使用している細胞系添付の説明書に厳密に従われることを推奨します。
- 培養細胞は、高濃度で、できる限り低い継代数において凍結してください。凍結前に、生細胞率が少なくとも90%であることを確認してください。最適な凍結条件は、使用する細胞系によって異なることに注意してください。
- 細胞は、速度制御フリーザーを使用して1分間に約1°Cの速度で温度を下げながら、または冷凍容器を使用して、ゆっくりと凍結してください。(例えばMr. Frosty™ 凍結保存容器など)
- 推奨されている凍結用培地を、常に使用してください。凍結用培地は、DMSOまたはグリセロールなどの凍結保護剤を含んでいる必要があります。
- 凍結した細胞の保存には、滅菌したクライオバイアルを常に使用してください。凍結した細胞を含むクライオバイアルは、液体窒素に浸すかまたは液体窒素上の気相内に保存することが可能です。
- 個人防護具を常に着用してください。
- 細胞に接触する溶液および器具はすべて滅菌する必要があります。常に適切な無菌操作を実行し、実験は層流フード内で行ってください。
安全性に関する注意
生体有害物質は、液体窒素上の気相中に保存する必要があります。密閉したクライオバイアルを液体窒素上の気相中に保存することにより、爆発の危険性が回避されます。液相保存では、ガラスおよびプラスチック容器も共に爆発する危険性があることを念頭に置き、常にフェースシールドまたはゴーグルを着用してください。
凍結用培地
細胞の凍結には、推奨されている凍結用培地を常に使用してください。凍結用培地は、DMSOまたはグリセロールなどの凍結保護剤を含んでいる必要があります。特別に調製された完全凍結保存培地である、Recovery™ Cell Culture Freezing MediumまたはSynth-a-Freeze™ Cryopreservation Mediumなどを使用することも可能です。
- Recovery Cell Culture Freezing Mediumは、哺乳類細胞用の、調製済み完全凍結保存培地であり、ウシ胎児血清およびウシ血清を、生細胞率および解凍後の細胞回復の改善に最適な比率で含みます。
- Synth-a-Freeze Cryopreservation Mediumは、既知組成の、タンパク質を含まない滅菌済み凍結保存培地で、10% DMSOを含有し、メラニン形成細胞を除く、多くの種類の幹細胞および一次細胞の凍結保存に適しています。
培養細胞の凍結に必要なもの
- 対数増殖期にある細胞を含む培養容器
- 完全増殖培地
- DMSOなどの凍結保護剤(細胞培養専用の物を使用し、層流フード内でのみ開封してください)、またはSynth-a-Freeze Cryopreservation MediumやRecovery Cell Culture Freezing Mediumなどの凍結培地
- 15 mLまたは50 mL容量の、滅菌済み使い捨てコニカルチューブ
- 生細胞率および総細胞カウントを決定するための試薬および器機(例: Countess II 自動セルカウン
ター、または血球計算盤、セルカウンターおよびトリパンブルー) - 滅菌済み凍結保存バイアル(すなわち、クライオバイアル)
- 速度制御フリーザー、またはイソプロパノールチェンバー
- 液体窒素細胞保存容器
接着性細胞の凍結には、上記に加え下記のものが必要です。
- ダルベッコリン酸緩衝生理食塩水(D-PBS)などのカルシウム、マグネシウムまたはフェノールレッドを含まない平衡塩類溶液
- トリプシンまたはTrypLE Expressなどのフェノールレッドを含まない解離試薬
培養細胞の凍結保存プロトコール
培養細胞の凍結保存の一般的な方法を以下に示します。プロトコールの詳細に関しては、常に製品説明書をご参照ください。
- 凍結培地を調製し、使用するまで2°C~8°Cの温度で保存してください。適切な凍結培地は細胞型によって異なることに注意してください。
- 接着性細胞の場合には、継代に使用した方法に従って、細胞を組織培養容器から剥離してください。使用している細胞型に必要な完全培地に、細胞を再懸濁してください。
- 血球計算盤、セルカウンターおよびトリパンブルー色素排除法、またはCountess II 自動セルカウンターを使用して、細胞総数および生細胞率を決定してください。望ましい生細胞密度に応じて、凍結培地の必要容量を算出してください。
- 細胞懸濁液を100~200×g で5分間から10分間遠心分離してください。細胞ペレットを乱さないように注意して、上清を無菌的にデカントしてください。(注意: 遠心分離の速度および時間は、細胞のタイプによって異なります。)
- 各細胞系に推奨されている生細胞密度になるように、細胞ペレットを冷却した凍結培地中に再懸濁してください。細胞懸濁液を、凍結保存バイアルに分注してください。分注の際には、細胞の緩やかな混合を繰り返し、均一な懸濁液状態を保つようにしてください。
- 速度制御フリーザーの中で、毎分約1°Cの速度で温度を低下させながら、細胞を凍結してください。または、細胞を含むクライオバイアルをイソプロパノールチャンバーに設置し、-80°Cで一晩保存してください。
- 凍結した細胞を液体窒素に移し、液体窒素上の気相中に保存してください。
凍結細胞の融解
凍結細胞の融解ガイドライン
融解操作は、凍結細胞にストレスを与えます。適切な方法を用いて迅速に操作を行うことにより、融解後の高い生細胞率が保証されます。最良の結果を得るためには、細胞培養における他の操作と同様に、使用している細胞および他の試薬に付属の製品説明書に厳密に従われることを推奨します。
- 凍結細胞は、37°Cの水浴で迅速に(1分以内に)融解してください。
- 融解した細胞は、あらかじめ温めておいた増殖培地を用いて、ゆっくりと希釈してください。
- 細胞の回復を最適化するために、融解した細胞は高濃度で播種してください。
- 常に適切な無菌操作を実行し、実験は層流フード内で行ってください。
- フェースマスクおよびゴーグルなどの個人防護具を、常に着用してください。液相保存していたクライオバイアルは、融解の際に爆発する危険があります。
- 凍結用培地の中には、有機分子の組織への取り込みを促進することが知られている、DMSOを含有しているものもあります。DMSOを含む試薬の取り扱いには、当該物質による危害に適応した装置および手順を使用してください。
凍結細胞の融解に必要なもの
- 凍結細胞を含んだクライオバイアル
- あらかじめ37°Cに温めておいた完全増殖培地
- 滅菌済みの使い捨て遠心チューブ
- 37°Cの水浴
- 70%エタノール
- 組織培養処理したフラスコ、プレートまたは培養皿
凍結細胞の融解プロトコール
凍結細胞の融解の一般的なプロトコールを以下に示します。プロトコールの詳細に関しては、常に製品説明書をご参照ください。
- 凍結細胞を含むクライオバイアルを、液体窒素保存から取り出し、直ちに37°Cの水浴に移してください。
- バイアルを37°Cの水浴中で緩やかに旋回し、バイアル中に少量の氷が残るまで、迅速に(1分以内)融解してください。
- バイアルを層流フード内に移してください。開栓する前に、バイアルの外面を70%エタノールで拭き取ってください。
- 融解した細胞を、使用している細胞系に適切な、あらかじめ温めておいた増殖培地を含んだ遠心チューブに1滴ずつ移してください。
- 細胞懸濁液を約200×g で5~10分間遠心分離してください。実際の遠心速度および時間は、細胞型によって異なります。
- 遠心分離後、上清が透明であり、完全なペレットが観察できることを確認してください。細胞ペレットを乱さずに、上清を無菌的にデカントしてください。
- 細胞をゆっくりと完全培地に再懸濁し、適切な培養容器に移し、推奨される培養環境に設置してください。(注意: 適切なフラスコのサイズは、クライオバイアル中で凍結した細胞の数に依存し、培養環境は細胞および培地のタイプによって異なります。)
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