弊社では、さまざまな精製タンパク質や標識品を製品としてご用意しておりますが、タンパク質の溶解や保存には、ちょっとした「コツ」が必要になることもあります。実際、お客様からもタンパク質の溶解や保存に関して、ご質問をいただく機会も多いため、今回は、タンパク質の溶解と保存方法についてご紹介します。
はじめに
多くのタンパク質は純水にも溶解しますが、少量の塩を添加することにより溶解度が上昇(塩溶)します。ただし、さらに塩を添加していくと、タンパク質の不溶化(塩析)が生じます。代表的な塩析の例は硫安沈殿ですが、これはタンパク質に結合している水和水が塩の電解イオンに奪われタンパク質が凝集するためと考えられています。一般的に生理的なイオン強度の塩(100-200 mM程度のNaClやKCl)がタンパク質の溶解には用いられますが、タンパク質のアミノ酸配列や等電点にも依存するため、例外もあります。
タンパク質の溶解方法
免疫原の調製にもっとも使用されるKeyhole Limpet Hemocyanin (KLH)は分子量が大きく(4.5 x 105 – 1.3 x 107 Daltons)、免疫システムを強力に刺激しますが、水溶性が低く溶解は困難です。KLHの溶解には900mM NaClを含むバッファーが一般的に使用されます。KLHは海洋性の貝に由来するタンパク質のため、水溶性や安定性の維持には高い塩濃度が必要です。弊社のKLH製品に関しても、独自の安定剤を添加することで、溶解性と安定性を改善しています。
NeutrAvidin (分子量 60kDa, 等電点6.3)はAvidinを脱グリコシル化したタンパク質です。AvidinやStreptavidinに比べた場合、糖鎖やRGD配列を介した非特異的結合が低いなどの利点もありますが、水溶性は低くなります。実際に水溶性に関するお問い合わせを頂くことも多いので、今回は弊社で行っているNeutravidinの溶解法に関して簡単にご説明いたします。
NeutrAvidin溶液の調製は、純水で10 mg/mlに溶解した後、PBSで1 mg/mlに希釈します。転倒攪拌か低~中速(100-120rpm)での磁気スターラーによる攪拌を行います。Vortex Mixerなどによる激しい攪拌は行いません。通常は10分以内に完全に溶解(超純水中に10 mg/mlで調製)します。 Neutravidinの等電点はpH6.3付近にあり、緩衝能のない純水中では(CO2の吸収による)pHシフトによる等電点沈殿が生じることがあります。純水により溶解したNeutravidinはPBSなどの適当なバッファーで1 mg/mlまで希釈します。
タンパク質の保存方法
一般的にタンパク質は凍結乾燥状態では安定的に保存できますが、溶解後のタンパク質溶液では分解や活性低下が生じることがあります。たとえば、タンパク質溶液は4℃で数日から数週間は安定ですが、長期間の保管には無菌的環境での保存や防腐剤の安定化剤の添加が必要です。表に典型的な保存条件を示します。
4℃ | -20℃ (凍結防止剤入り) | -20℃または-80℃ (小分けして保管) | 凍結乾燥 | |
保管期間 | 数ヶ月間 | 1年間 | 数年間 | 数年間 |
滅菌または防腐剤の添加 | 必要 | 場合により必要 | 不要 | 不要 |
凍結融解による活性低下 | なし | なし | あり | – |
4℃での保存に関しては、0.1% アジ化ナトリウムや0.01% チメロサールなどの防腐剤やプロテアーゼ阻害剤カクテルの添加が必要です。酸化からタンパク質を保護するためにキレート剤のEDTAや還元剤のDTTまたは2-メルカプトエタノールを1-5 mM程度で添加することもあります。 低濃度のタンパク質溶液は一般的に安定性が低下するため、1 mg/ml以下のタンパク質溶液にはキャリアタンパク質としてウシ血清アルブミンなどの不活性なタンパク質を添加することもあります。
-20℃での保存に関しては、凍結融解による活性低下や凝集を最小化するため、少量ずつ小分けして保管するか、グリセロールやエチレングリコールなどの凍結防止剤を25-50%で添加して凍結保管します。4℃または-20℃におけるタンパク質の保存では、凍結防止剤や安定化剤を含むカクテルProtein Stabilizing Cocktailも、ご利用いただけます。
最後に
タンパク質の溶解や保存は、プロテオミクス実験をおこなう場合、非常に重要です。溶解条件や保存条件はタンパク質の種類や用途にも依存しますので、実験の際は、この記事を参考にしてみてください!
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