吸光度測定による濃度測定で、分光光度計を使用されている方も多いかと思います。
貴重なサンプルの吸光度測定がしたい、でもサンプルをたくさん測定に使用したくないという方には、微量分光光度計がおすすめです。
Thermo Scientific™ NanoDrop™微量分光光度計は、サンプルを希釈せずに、わずか1~2 µLのサンプル量で高濃度まで精度良く測定可能な微量分光光度計です。
キュベットタイプの分光光度計をご使用の方には、サンプルを希釈することなく、なぜ高濃度測定が可能かについて疑問をお持ちの方もいらっしゃるのではないでしょうか。
そこで今回は、高濃度サンプルでも手軽に精度よく吸光度測定できるNanoDrop微量分光光度計の魅力について、ご紹介いたします。
▼こんな方におすすめです!
・吸光度測定を実施されている方
・超微量分光光度計をご利用・ご検討の方
・高濃度測定に疑問をお持ちの方
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吸光度の有効値について
吸光度は、特定波長の光源をある物質に入射した際の、入射光(Io)と透過光(Ix)から算出される透過度(T)を用いて以下の式により導かれます。
吸光度(A)=-log10(T)
T=Ix/Io
吸光度(A)=-log10(Ix/Io)
つまり、透過度が低くなるほど光のエネルギーが物質に吸収されたということで吸光度は高くなります。この吸光度は、光路長に比例するランベルトの法則と、サンプル濃度に比例するベールの法則からなる、通称ランベルト・ベールの法則に従います。つまり、吸光度(入射光と透過光の比からなる透過率)は、光が通過する光路長(L)と、サンプル濃度(C)の積に比例することになります(図1)。
ただ、このランベルト・ベールの法則は、以下のような条件下では成り立たないと考えられています。1つ目の条件は、高濃度溶液の測定、つまり高い吸光度を有するサンプルを測定する場合です。サンプル濃度が高くなるにつれ、検出器に到達する透過光は弱くなります。つまり、入射光の吸収が大きくなり、透過光が検出器の検出限界付近まで弱くなることで、測定誤差の影響を大きく受けることになります(図2)。
2つ目の条件は、逆に低濃度溶液の測定、つまり低い吸光度を有するサンプルを測定する場合です。測定サンプルの吸光度が非常に低い場合、吸光度の変化に対する透過度の差分が大きくなります。つまり、低濃度サンプルでは、サンプル内の均一性が吸光度に大きく測定値に影響します。(図3)。
以上のことから、サンプル溶液濃度は、吸光度測定に大きく影響する重要な要素です。これらのことを踏まえて、一般的に吸光度は、0.05 A から1.5 Aが有効な値と考えられており、いかに信頼度の高い吸光度範囲内で測定できるかが重要です。
NanoDrop微量分光光度計による高濃度サンプル測定の原理に迫る
微量分光光度計であるNanoDrop微量分光光度計は、キュベットを用いた測定とは異なり、非常に少ないサンプル量(1.0 µL程度)でもサンプルの吸光度が測定可能な実験機器です。
一般的に信頼できる吸光度は、1.5 A程度が上限として考えられているにもかかわらず、NanoDrop微量分光光度計で1.5 A以上の吸光度が測定可能なのはなぜでしょうか?それはNanoDrop微量分光光度計の最大の特長でもある、サンプルの吸光度に合わせた光路長可変機能にあります。
キュベット対応機種でも短光路長セルを使用することで、光路長調節が可能ですが、NanoDrop微量分光光度計は、キュベット測定では難しい1 mm以下に光路長調節が可能です。
ランベルト・ベールの法則により、短い光路長では、入射光の吸収が抑えられ、吸光度は小さくなります。また、入射光の吸収が抑えられることで透過光が十分検出器に届き、透過度は逆に高くなります。
従って、短光路長では、サンプルに投射した入射光の吸収を減少させ、透過度を高くし、結果、検出される吸光度は低くなります。つまり、高濃度のサンプルであっても、短光路長により信頼度の高い吸光度範囲内で測定することが可能となります。
吸光度(A)=εCL ->光路長(L)が短いほど吸光度(A)は小さくなる |
-log10(T)=εCL =log10(T)=-εCL T=10-εCL=1/10εCL ->光路長(L)が短いほど透過度(T)は高くなる |
NanoDrop微量分光光度計の特長をまとめると以下のようになります。
1.少量のサンプルで測定可能
2.希釈なしで高濃度サンプルの濃度測定が可能
Thermo Scientific™ NanoDrop™ One微量分光光度計では最大550 A(光路長10 mm相当)まで測定可能
3.高濃度サンプルでも最適な短光路長を選択し、ランベルト・ベールの法則を逸脱しない吸光度測定が可能
では実際に、光路長1 mmでの吸光度測定で、ランベルト・ベールの法則を逸脱しないかを確認してみます。
サンプルはBSAで、濃度は10 mg/mLとします(この濃度は、一般的な10 mm光路長のキュベットを用いる分光光度計での測定では、濃度が高すぎるため、希釈が必要な濃度です) 。
BSAの情報として、分子量:66 kDa モル吸光係数:43824 M/cmで計算します。
まずは質量濃度をモル濃度に換算
C(モル濃度) = 10 mg/mL/66000 Da = 1.51×10 -4 mol/L
ここでランベルト・ベールの法則に代入します。
A(吸光度)= εCL
A = 43824 M/cm×1.51×10-4 mol/L×0.1 cm = 0.664
結果、吸光度は<1.5 Aに収まっています。
次にT(透過度)を確認します。
A = -log10T
0.664 = -log10T
T = 1/10 0.664 = 0.21677041
これが光路長10 mmでの測定では、
A(吸光度) = εCL =43824 M/cm×1.51× 10 -4 mol/L×1 cm = 6.64
T = 1/10 6.64 = 2.29087×10-7
となります。
つまりキュベット測定で一般的な光路長10 mmでは、高濃度サンプルの吸光度は1.5 A以上の高値を呈し、透過度は非常に小さい値を呈します。
結果、10 mm光路長では高濃度サンプル測定時にランベルト・ベールの法則が成り立たないことがわかります。
一方、光路長1 mmでは、吸光度がランベルト・ベールの法則が成り立つ0.05 Aから1.5 Aの範囲内に収まり、信頼性のある値が表示されます 。
以上のことから、短い光路長が選択できるNanoDrop微量分光光度計では、一般的なキュベットによる分光光度計での測定では測れないとされる高濃度サンプルでも、希釈なしで測定が可能となります。
NanoDrop One微量分光光度計の自動光路長選択とサンプル吸光度の関係性
NanoDrop微量分光光度計は、短い光路長を利用できることから高濃度サンプルの測定が可能ですが、サンプル吸光度と光路長の関係性が気になるところかと思います。
NanoDrop One微量分光光度計の台座測定では、サンプル吸光度に応じて表1のように光路長を調節しています。
測定可能となる吸光度範囲は、光路長を10 mmに換算した場合、0.04 Aから550 Aとなります。
サンプル吸光度範囲を測定時の光路長に換算した場合、極めて低吸光度・高吸光度のサンプルが対象の場合を除いて、ランベルト・ベールの法則が成り立つ0.05 Aから1.5 Aの範囲内に収まります(表1、図4)。
このように、NanoDrop One微量分光光度計は、サンプルの吸光度に合わせて、ランベルト・ベールの法則が成り立つような光路長を自動的に設定することで、サンプルを希釈調節することなく信頼性のある吸光度測定ができます。
まとめ
いかがでしたでしょうか?今回、普段何気なく測定されている吸光度について、吸光度測定の原理や微量分光光度計のメリットについてご紹介いたしました。測定サンプルの吸光度の信頼性について疑問をお持ちの方や、微量分光光度計を検討されている方はぜひご参考にしてください。
吸光度測定は、さまざまな実験系の上流のみではなく下流でも必要となる実験です。これを機に、一度吸光度測定の原理に立ち返り、吸光度への理解を深めてみてはいかがでしょうか?
NanoDropご利用のお客様へ
Webサイトのリソースページ(thermofisher.com/jp-nanodrop-setup)には、How-to動画などNanoDrop One / OneCに関する様々なお役立ちコンテンツを掲載しています。
併せてご参照ください。
また、以下リンクより「NanoDrop」に関連する他のブログ記事もご覧いただけます。
https://www.thermofisher.com/blog/learning-at-the-bench/tag/nanodrop/
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