はじめに
SDSゲルからのタンパク質の電気ブロッティングを最適化するためには数多くのパラメータを考慮する必要があります。目標はゲルからすべてのタンパク質を転写させ、転写膜に定量的に転写させることです。高い転写効率を得るためには、とくに大きなタンパク質と小さなタンパク質の転写を最適化する必要があります。
転写後、ゲルにはタンパク質は残存していないはずです。これは転写後にゲルを染色することによってモニターすることができます。ゲルから転写したタンパク質はゲルと接触していた膜の上に見えるはずです。疑わしい場合はブロットに二番目の「バックアップ」膜を用い、後にこれを染色してタンパク質が1枚目の膜を通過したかどうかをチェックすることができます。ゲルにタンパク質が残り、膜との結合が弱い場合は以下のパラメータを調整します。
SDSとアルコールの作用
たいていのブロッティングプロトコールではSDSとアルコールが用いられています。しかし、これらは転写の成否に関しては逆の作用を有しており、転写させるタンパク質の性質に応じて最適化する必要があります。
SDSはタンパク質が移動するために必要であり、ゲルからの大きなタンパク質の転写を促進する上でとくに有用です。しかし、膜への結合は疎水性の相互作用を必要とするので、SDSが多すぎるととくにニトロセルロースへの結合が妨げられることがあります。逆にあまりに多くのSDSがタンパク質から奪われるとゲルから転写しないことがあります。
一般原則として、膜への結合効率はよいが一部のタンパク質がゲルに残っている場合は、トランスファーバッファーに0.01%のSDSを添加すると転写が促進されることがあります。推奨プロトコールではトランスファーバッファーにSDSは含まれていませんが、電気泳動後にゲルを浸さないことが必要です。つまり転写が効率的に行なわれるためにはゲルに残存しているSDSで十分なのです。
他方、アルコールはタンパク質から一部のSDSを奪うことによってタンパク質の膜への疎水性結合を促進するために用いられています。通常、トランスファーバッファーに20%のメタノールを含ませることによりニトロセルロース膜への結合が向上します。
ゲルのアクリルアミドの濃度
アクリルアミドの濃度が低いほどタンパク質は転写しやすくなります。タンパク質を分離する上でできるだけ低い濃度を選択します。グラジエントゲルはゲルマトリックスの多孔性がさまざまな大きさのタンパク質によく適合しているので、広範な大きさのタンパク質をブロットする上で理想的です。
ゲルの厚さ
他のすべての条件が同じであれば、ゲルが薄いほどタンパク質は容易に転写されます。したがって、サンプル容量が許す限り厚さ1.5 mmより1.0 mmのゲルを選択します。
電場(電圧×時間)
電圧が低すぎたり転写時間が短すぎると一部のタンパク質がゲルに残ります。電圧が高すぎると小さなタンパク質は結合する前に膜を通過してしまいます。推奨条件でブロッティングした後にゲルにタンパク質が残る場合は、5ボルトを超えない程度の電圧を上げるのが有効です。しかし、いったんSDSがタンパク質から外れると転写時間を長くしても電圧を上げても効果がないことに注意して下さい。たいていのタンパク質はいったん結合すると転写時間を伸ばしても膜上に留まります。
膜の種類
ニトロセルロース膜への結合は主に疎水性結合によるものです。ニトロセルロースは多目的のすぐれた膜です。小さなペプチドでは孔の小さな膜をお薦めします。
PVDFはニトロセルロースより疎水性が高く、より強力にタンパク質と結合し、ブロッティング系ではより多くのSDSに耐えます。したがって、一般にPVDFはニトロセルロースより厳格なブロッキング条件を必要とします。PVDFはタンパク質の配列決定に適しています。
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