前回はPCRにおける収量、特異性、フィデリティと酵素の関係についてご紹介しました。今回は、それらの特長をふまえてPCRの最適化について記します。
まずは、それらに関わるパラメータを理解すると、よりスムーズに最適化ができると思います。
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塩濃度の重要性
まず、酵素は2価の陽イオンを要求します。PCR溶液にマグネシウム溶液が入っていることからも分かると思います。では、マグネシウム濃度が高くなるとどうなるかというと、酵素の活性は当然高くなり、収量も増えます。しかし過剰な活性は特異性を失うだけでなく、不要なPCR産物も増幅することになります。また、高い酵素活性は、フィデリティの低下にもつながります。つまり必要ない産物が増えてしまったときは、マグネシウム濃度を低く設定すると、目的の産物のみが残るように最適化をすることが可能です。逆に、収量が少ない場合は、増やす方向での調整が必要になります。一般的な至適最終濃度は1.5~2.5 mMとは言われていますが、PCR産物の鎖長が長くなればなるほど、その至適塩濃度範囲は狭くなります。
温度プロファイルの工夫
2点?それとも3点PCR?
PCRの基礎では3つの温度(Denature-Annealing-Extension)を設定することからはじまります。しかし特殊な条件でなければ、この3つの温度を設定するのは過剰であると言えます。つまり、プライマーをAnnealingさせるステップでも酵素の活性(50℃で1~2 kb/min)は十分にあるということです。この活性をみれば、Annealingで30秒程度温度保持を行うだけで、数100bpの伸長反応は行われているということです。その後にExtensionステップとして、さらに72℃で数10秒行うことは、一般的な500bp程度のPCRにおいては過剰であると言わざるを得ません。
また、各ステップ間での移動、たとえばAnnealingからExtensionへ、移行する時間も伸長反応は行われます。そのため温度移行速度の異なる機種間では、温度プロファイルが同じでも結果が異なるのは、こういったことが原因であることが多くあります。したがって、これから一般的なPCRをはじめようという方は、AnnealingとExtensionを一緒にしたDenature-Annealing/ Extensionの2点PCRを採用することをお勧めします。
アニーリング温度の設定
PCRの温度設定を行う場合、2点でも3点でもDenatureの温度はほぼ95℃前後となります。また3点PCRでのExtensionは72℃とします。したがって、設定する必要があるのは、Annealing温度のみです。一般にプライマーのTm値から2~3℃程度低い温度とされていますが、まずはTm値に関して簡単に解説します。Tm値は融解温度と訳され、プライマーがターゲット配列と50%の割合で2本鎖を形成する温度です。そのため温度が低い方が2本鎖を形成している比率が高くなると言えます。またTm値よりも高い温度であったとしても、2本鎖の割合がすくなくなるだけで、Annealingはおこっています。
さて、Annealing温度の設定ですが、PCRプライマーは2本使用しますので、2つのTm値がPCR条件には存在することになります。そのため、それら温度の中点に設定するところからスタートしてください。その理由としては、 2種類のプライマーのAnnealing頻度を近似させることです。そして非特異的なPCR産物が出るようでしたら、Tm値以上でも構いませんので、設定温度を上げてください。これによりプライマーのAnnealing効率は下がりますが、温度上昇にしたがって酵素も活性が上がります。 特異的PCR増幅が行われるAnnealing温度が設定できた後に、さらなる収量が必要であれば、塩濃度を上げて調整すればよいかと思われます。
時間の設定
各ステップでの保持時間ですが、まずDenatureステップです。ここでは30秒程度で十分です。長鎖のゲノムDNAでさえ、20秒程度で1本鎖に解離すると言われています。また、PCRでの本当のテンプレートになるのは、前サイクルで増幅したPCR産物そのもので、その鎖長はゲノムDNAに比べればはるかに短く、簡単に解離します。Annealingにおいて、プライマーの分子数はテンプレートになるDNAよりはるかに多く常に会合-解離を繰り返していますので、30秒もあれば2本鎖を形成し、少しの伸長までおきます。2点PCRにおいては、ここで伸長反応も行いますので、おおむねですが40秒/kbとして設定してください。計算上30秒以下になる場合は30秒として設定をすることをお勧めします。
それでもうまく増幅ができない……
これはおそらく、プライマー自身の問題です。これは次回にご紹介します。
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