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はじめに
組み換えタンパク質発現は、多くの研究プロジェクトにおいて欠かせない技術の一つです。哺乳類細胞、昆虫細胞、酵母、大腸菌を用いた系、および無細胞発現系などさまざまな発現系が開発されていますが、すべてのタンパク質、アプリケーションに最適な発現系は無く、使用用途、目的タンパク質に合わせて使い分ける必要があります。
以下の表は各発現系の特長、課題をまとめたものです。実際に試してみないとわからないこともいまだ多くありますが、最適な発現系を絞り込む目安になるはずです。また、表の後に発現系ごとの現在お勧めの製品、および関連する技術をご紹介しますので併せてご参照ください。
各発現系について~お勧めの製品情報
哺乳類細胞発現系
特に哺乳類由来タンパク質の発現では活性を持つタンパク質が得られる可能性がもっとも高いと言えますが、一般的にコストが高く、発現レベルが低いことが課題です。ただし、総タンパク質あたりの発現量が少ないため精製に手間がかかります。つまり、いかに発現レベルを上げるかがポイントとなります。まずは通常高発現を望めるベクターの選択が肝要です。現在、当社では以下のベクターが高発現を期待できます。
pcDNA™3.4 TOPO™ TA Cloning Kit
また、浮遊培養系で比較的高発現なシステムが出始めています(抗体をg/Lスケール)。浮遊細胞用の設備を準備していただく必要がありますが、ぜひ一度お試しください。
Gibco™ Expi293™Expression System
Gibco™ ExpiCHO™ Expression System
また、哺乳類細胞発現系は糖鎖付加が起こることがメリットの一つですが、構造解析を行う場合に邪魔になることもあると思います。そんな場合はGibco™ Expi293F™ GnTI- Cellsをご検討ください。
昆虫細胞発現系
哺乳類細胞発現系に次いで高活性のタンパク質が得られ、かつ、うまくいけば発現レベルが高いという利点があります。しかし、通常バキュロウイルスを使用するため、その手間と時間が問題と考えられる方が多いのではないでしょうか。以下の製品もバキュロウイルスを使用していますが、各ステップの効率を上げることによりウイルス増幅ステップを省き、最短1週間程度でタンパク質発現を行うことができます。
Gibco™ ExpiSf9™ Baculovirus Expression System
※各社バキュロウイルスのゲノムDNAであるBacmid作成方法を工夫していますが、上記システムでは専用の大腸菌内でBacmid作成を行う、Bac-to-Bac™システムを採用しています。
ちなみにバキュロウイルスを使用しない系もあります。発現レベルは一般的にバキュロウイルスを使用した時よりも低くなりますが、哺乳類細胞発現系と同じようにトランスフェクションにより一過性、安定発現が可能です。
Invitrogen™ InsectSelect™システム(Sf9細胞など使用)
酵母発現系
単細胞生物ですが真核生物ですので、小胞体を持つため分泌発現が行えます。主にSaccharomyces cerevisiaeを使った系とPichia pastorisを使った系がありますが、タンパク質の大量発現には主に後者(Pichia)が使用されます。大腸菌よりは少し手間がかかりますが、Pichiaだとかなり高発現も期待できます。酵母の場合、組み換え体の選別に栄養要求性を利用することが多くその場合最小培地を使用する必要がありますが、大腸菌と同様に抗生物質耐性で選別するシステムも準備されています。
Invitrogen™ EasySelect™ Pichia Expression Kit
大腸菌発現系
とにかく安価で高発現できる可能性があるので、まずは一度試してみる価値があると思います。また、不溶化してもいい場合などは最適だと思われます。ただし、リフォールディングにより封入体を可溶化することも可能な場合もあります。
Thermo Scientific™ Pierce™ Protein Refolding Kit
なお、膜タンパク質のようにもともと不溶性のもの、および分泌タンパク質などには通常不向きです(一部ベクターでは可能な場合もあります)が、細胞質局在の可溶性タンパク質の場合、試してみる価値が十分あると思います。
さまざまなメーカーから同じようなシステムが販売されていますが、IPTG誘導をかける前から発現してしまう問題で、発現タンパク質の不溶化、毒性による収量低下の原因になる誘導漏れの問題を解消できるBL21-AI™株については一考の価値があると思います(アラビノース誘導系を使用していますが、一般的なpET系ベクターを使用可能です)。
Invitrogen™ BL21-AI™ One Shot™ Chemically Competent E. coli
なお、一般的にはタグ無しよりは、短いものでもN末端側に付けた方が発現成功率は高いようです。当社Gatewayシステムを使えば各種タグとの相性を調べるのに便利です(その他の関連技術参照)。また、人工遺伝子合成を利用し、コドンの最適化を行うのも高収量を得るためには有効な場合が多いようです(その他の関連技術参照)。
藻類発現系
タンパク質を大量に作りたい場合に使用されるケースは少なく、光合成など、植物特有の機能に関する研究にモデル生物として使用されるのがほとんどだと思われます。その他バイオ燃料開発のパイロット実験に使用されることもありそうです。
当社はもっともよく使用されている株の一つである、ラン藻Synechococcus elongatusおよびクラミドモナスChlamydomonas reinhardtii 137cで使用可能な培地とベクターの販売を行っています。
なお、哺乳類由来の遺伝子を発現させる場合は、塩基配列の最適化が有効な場合が多いようです。人工遺伝子合成を利用し、コドンの最適化を行うのも高収量を得るためには有効な場合が多いようです(その他の関連技術参照)。
無細胞発現系
ハイコストであることは変わりありませんが、比較的高発現が期待できるシステムとして、大腸菌、小麦胚芽、哺乳類細胞、昆虫細胞を使った系が開発されています。特に構造解析用に安定同位体などのラベルを入れられたい場合には検討される価値があると思います。また、96 wellプレートなどでも行えて、基本的に短時間で完了するため、ハイスループットフレンドリーな発現系だと言えます。また、発現自体は組み換え実験にはあたりません。工夫すれば全行程を非組み換え実験として行うことも可能です。
当社では大腸菌および哺乳類細胞由来の抽出液を使用した系を販売しています。やはり哺乳類由来のタンパク質の発現には哺乳類由来の系の方が相性はいいようです。
大腸菌無細胞発現系:Invitrogen™ Expressway™ Cell-Free Expression System
哺乳類無細胞発現系:Thermo Scientific™ 1-Step Human Coupled IVT Kit – DNA
その他の関連技術
実験を始める際、まずはどのような発現ベクターを使用するかを考える必要があります。その際、以下の検索サイトが便利です。
発現ベクターの準備にはクローニング技術が必要です。これから始められる方には以下ハンズオントレーニングがお勧めです。
また、一から試薬などをそろえる必要がある場合など、人工遺伝子合成で発現ベクターを作ってしまうのも一手です。当社の多くのベクターは本サービスでは無償で(クローニング代は必要)ご利用いただけますので便利です。また、テクニカルサポートへお問い合わせいただければ適切なベクターの選び方などご案内可能です。
さらに、特に候補遺伝子の由来生物と発現用のホスト生物が進化的に離れている場合など、最適化が非常に有効な場合があります。ヒトの遺伝子を大腸菌や藻類などで発現させる場合は最適化を行うために遺伝子を人工合成するということもあります。また、意外とヒトの遺伝子をヒトの細胞で発現させる場合でも最適化により発現量が増えることがあります。
やはりどの発現系が最適化は試してみないとわからないことがあります。大腸菌発現系では不溶化してしまい、タグを複数種類試す必要がある、あるいは大腸菌をあきらめて哺乳類細胞発現系を試すなど。Gatewayテクノロジーを利用すれば、対象遺伝子の他の発現ベクターへの乗せ換えを簡便に行えます。
最後に、実験に使用する組み換えタンパク質を発現するサービスもございます。
その他ご不明点な点はお気軽にテクニカルサポートまでご連絡ください。
Tel: 0120-477-392(ダイレクト番号6)
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タンパク発現の実験を検討している方や、詳細情報を確認したい方にうってつけのハンドブックです。
研究用にのみ使用できます。診断用には使用いただけません。