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逆転写酵素とは?
リアルタイムPCRに使用される逆転写酵素の大部分は、トリ骨髄芽球症ウイルス(AMV)またはモロニーマウス白血病ウイルス(M-MLV)由来です。天然のAMV逆転写酵素は一般的にM-MLVよりも熱安定性ですが収量は低くなります。しかし、天然型の酵素を改変することにより、リアルタイムPCRにとって理想的な性質を有する変異体が得られます。理想的な逆転写酵素には以下のような性質が備わっています。
- 熱安定性:二次構造は反応の感度に大きな影響を与えます。天然型のRTの性能に理想的な温度は42°Cから50°Cの間ですが、熱安定型のRTはこの温度範囲の高温域(あるいはそれ以上の温度)において機能し、GC含量の高い領域の逆転写も可能です。
- RNase H活性:RNase Hドメインは通常の天然型逆転写酵素に存在し、in vivo で次の複製段階のためにRNA-DNAヘテロ二量体のRNAを解離するために機能します。リアルタイムPCRにおいては、RNase H活性により収量および完全長のcDNAの割合が大きく低下する可能性があり、感度の低下につながります。RNase H活性を低下させたRTがいくつか開発されており、中でもInvitrogen™ SuperScript™ IIIおよびIVが最も優れています。
1-Step qRT-PCRおよび2-Step qRT-PCR
1-Step qRT-PCRを選択するか2-Step qRT-PCRを選択するかは、簡便性、感度およびアッセイデザインにより左右されます。各実験に関して、それぞれの方法の利点および欠点を評価する必要があります。
1-Step反応においては、逆転写の間は逆転写酵素と熱安定性DNAポリメラーゼの両方が存在し、高温のDNAポリメラーゼ活性化段階(いわゆるホットスタート)においてRTが不活性化されます。通常、RTにはDNAポリメラーゼにとって最適ではないバッファーが適しています。このため、1-Step 反応のバッファーは両方の酵素に関して、許容可能ではあるけれど最適とはいえない機能性を供給する、妥協的なソリューションとなっています。この機能性のわずかな低下は、単一チューブ内ですべてのcDNA産物がPCR段階で増幅されるという利点により補われます。
2-Step qRT-PCRにおいては、逆転写は逆転写用に最適化されたバッファー中で行われます。逆転写が完了すると、約10%のcDNAをPCR用に最適化されたバッファー中での各リアルタイムPCR反応に移行できます。
1-Step qRT-PCRの利点
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- コンタミネーションの防止:単独チューブ内で連続して反応するので、RT段階とPCR段階の間での汚染物質のコンタミ防止されます。
- 簡便性:ピペッテイングステップ数が減少し、ハンズオン時間が最小限に抑えられます。
- ハイスループットのサンプルスクリーニング:理由は先述したとおりです。
- 感度:1-Step反応においては生成したcDNAがすべてリアルタイムPCR増幅に利用されるため、2-Step反応と比較してより感度が高くなる可能性があります。
1-Step qRT-PCRの欠点
- プライマーダイマーの生成可能性の増加:1-Step反応の初期から存在するフォワードおよびリバースの遺伝子特異的プライマーは、逆転写条件である42°C~50°Cの温度範囲でダイマーを形成する可能性がより高くなります。これは、DNA結合色素を検出に使用する際には特に問題です。
- cDNAを他のリアルタイムPCR反応に使用することが不可能:1-Step反応では、RTステップからのcDNAがすべて使用されます。このため、反応に失敗するとすべての試料が失われてしまいます。
2-Step qRT-PCRの利点
- cDNAを保存してさらにリアルタイムPCR反応を行うことが可能:2-Step qRT-PCRでは複数回のqRT-PCR反応に十分な量のcDNAを合成しますので、レアな試料または量の限られた試料には最適です。
- 感度:2-Step反応においては、RTとPCR反応はそれぞれ個別に最適化されたバッファー中で行われるため、1-Step反応と比較してより感度が高くなる可能性があります。
- 複数のターゲット:使用するRTプライマーによっては、単一のRNA試料から複数のターゲットの解析を行うことが可能です。
2-Step qRT-PCRの欠点
- RT酵素およびバッファーがリアルタイムPCRを阻害する可能性:通常リアルタイムPCR反応にcDNA合成反応液を10%程度使用しますが、これは適正に希釈を行わないと、RTおよび関連するバッファー成分がDNAポリメラーゼを阻害する可能性があるためです。
- 簡便性が低い:2-Step反応にはより多くの操作が必要であり、ハイスループットアプリケーションへの適応性がより低くなります。
- コンタミネーションの危険性:各ステップに異なるチューブを使用するため、コンタミネーションの危険度が増します。
RNAプライミング法
逆転写はqRT-PCR反応において最も変動要因が多い工程です。cDNAの合成反応には遺伝子種、オリゴ(dT)またはランダムプライマーが使用可能で(図)、プライマーの選択がRT効率および一貫性、そしてその結果としてデータの精度に大きな影響を与えます。
ランダムプライマーは多くのcDNAの合成に適しており、リアルタイムPCRにおいて最高の感度を提供することが可能です。ランダムプライマーはまた、細菌性RNAなどの非アデニル化RNAにおいても理想的です。ランダムプライマーはターゲット分子全体にアニールするため、分解した転写産物や二次構造が存在していても遺伝子特異的プライマーやオリゴ(dT)プライマーの場合ほど大きな問題にはなりません。
収量の向上は望ましいことですが、ランダムプライマーではコピー数を過大評価してしまう可能性があることがデータから示されています。ランダムプライマーとオリゴ(dT)プライマーの組み合わせを利用することで、同一のRT反応において両者の長所を組み合わせることにより、データの品質を向上させることが可能な場合もあります。ランダムプライマーは2-StepリアルタイムPCRにおいてのみ使用されます。
オリゴ(dT)プライマーは、そのmRNAへの特異性および同一のcDNAプールから多くの異なるターゲットを解析することが可能であることから、2-Step 反応に多用されています。しかし、オリゴ(dT)プライマーは常に転写物の3′末端から逆転写を開始するため、強固な二次構造が存在すると不完全なcDNA の合成につながる可能性があります。FFPE試料から単離されたRNAなどの、フラグメント化したRNAのオリゴ(dT)プライミングも問題を生じる可能性があります。しかし、リアルタイムPCRプライマーがターゲットの3′末端近傍にデザインされている限り、この位置の下流における早期伸長停止は通常重大な問題とはなりません。
弊社ではいくつかの種類のオリゴ(dT)プライマーをご提供しています。Oligo(dT)20は、チミジン20量体の均一混合物であり、Oligo(dT)12-18は、チミジン12 量体とチミジン18量体の混合物です。アンカー付きオリゴ(dT)プライマーは、3′UTR/poly(A)ジャンクションでアニールすることにより、poly(A)スリップを回避するようにデザインされています。熱安定性の高いRTでは、短いプライマーと比較して高温でより堅固にアニールした状態を保持する、長いプライマーのほうが性能が高くなる可能性もあります。標準化に18SrRNAを使用する場合には、オリゴ(dT)プライマーは推奨しません。
配列特異的プライマーは、最高の特異性を示し、RT用プライマーの中では最も一貫性のあることが示されています。しかし、配列特異的プライマーはオリゴ(dT)プライマーやランダムプライマーのような柔軟性を得ることはできず、ターゲット遺伝子産物のcDNAコピーのみが合成されます。このため配列特異的プライマーは、少量または貴重な試料を取り扱う研究においては一般的に最良の選択肢ではありません。1-Step qRT-PCR反応においてはcDNA合成には常に配列特異的プライマーを使用しますが、2-Step 反応においては他のプライマーを用います。
各プライマーはそれぞれ特徴的な理論的長所と欠点を有しています。さらに各ターゲットは異なるプライマーに対して異なった反応を示す可能性があります。理想的には、初期のアッセイ評価段階において各プライマーを評価し、どのプライマーで最適な感度と精度を得られるかを決定することが必要です。
逆転写の効率に影響を与える因子
リアルタイムPCRにおいて、RTステージはPCRステージよりも一貫性が低くなっています。これは、テンプレートRNAに関連した要因の組み合わせによるもので、熱安定性DNAポリメラーゼに関しては通常この組み合わせによる試験は行われていません。これらの要因として以下のものが挙げられます。
- RNA分解度の相違:特定のRNA試料の分解量は、cDNAに変換されて定量されるmRNAターゲットの割合に直接影響します。使用するRTプライマーによっては、分解の影響により、RTによる完全長のターゲットアンプリコンのcDNAの生成が阻害される可能性があります。RT効率が低いほどPCRアッセイの感度は低くなります。標準化されていない効率の変動は不正確な結果につながる可能性があります。
- GC含量、RNA試料の複雑性および使用するRT酵素:RNA発現量の比較においては、RTが試料間のさけられない差に感受性が低いほど精度は高くなります。例えば、RTプライマーに適合しないすべてのバックグラウンドの核酸による試料の複雑性だけでも、10倍におよぶ反応効率の差をもたらし得ることがデータによって示されています。このようなバックグラウンドにおいても一貫したcDNA合成が可能なRTが理想的です。
- 有機溶媒およびカオトロピック塩の残存:エタノールおよびグアニジンはRNAを効率的に抽出するために必要ですが、酵素反応を強く阻害します。RNA試料間におけるこれらの汚染物質の量の差は、試料間の比較に影響を与える可能性があります。このため、これらの夾雑物の量が一貫して低くなるようなRNA精製方法を使用することが重要です。弊社ではリアルタイムPCR反応において、検証済みのノーマライザー遺伝子を使用することも推奨しています。
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