自分がつかっているPCR系の増幅効率を把握しておくことは、実験を進める上でとても大切です。今回は、リアルタイムPCRの増幅効率を数値で求めることに挑戦します。
計算に入る前に、リアルタイムPCRの原理(第5回)で学んだことを思い出してください。増幅効率を求めるときも、 “PCRの1サイクルで鋳型DNAが2倍に増える”という理論がベースになります。
なるほど。さっそく、始めましょう。
初期鋳型DNAの量を[DNA]0、増幅効率をe、サイクル数をCとします。
PCRで増幅されるPCR産物の量[DNA]は、
\left[ DNA \right] ={ \left[ DNA \right] }_{ 0 }{ \left( 1+e \right) }^{ C }\cdots \cdots \left( 1 \right)
で表せます。
増幅効率が100%、つまり“ 増幅効率e=1 ”のとき、“ (1+e)=2 ”となります。
DNAが1サイクルでは2倍に増える、ということです。
2サイクルでは2の2乗で4倍に増え、10サイクルでは2の10乗で1,024倍に増え…と続きます。
では、増幅効率が85%、つまり“ 増幅効率e=0.85 ”のときは、DNAはどのように増えていくのでしょうか。増幅効率が100%と85%の場合を表1にまとめたので、サイクル毎の相対量を両者で比較してみてください。
サイクル数 | 相対量 (増幅効率が100%のとき) |
相対量 (増幅効率が85%とすると) |
10 | 1,024 | ~500 |
20 | 1,048,576 | ~200,000 |
30 | 1,073,741,824 | ~100,000,000 |
40 | 〜1,099,511,628,000 | ~50,000,000,000 |
サイクル数が増えれば増えるほど、もともとの増幅効率の差がPCR産物の量に大きく影響することが、よく分かります。
次に、(1)式の両辺の対数をとってみましょう。
\log { \left[ DNA \right] } =\log { { \left[ DNA \right] }_{ 0 }+\log { \left( 1+e \right) ^{ C } } }
\log { \left[ DNA \right] } =\log { { \left[ DNA \right] }_{ 0 }+C\log { \left( 1+e \right) } }
Threshold Cycleに達するサイクルC = Ctとすると、
Ct=\frac { \left( \log { { \left[ DNA \right] }_{ t } } -\log { \left[ DNA \right] } _{ 0 } \right) }{ \log { \left( 1+e \right) } } \cdots \cdots \left( 2 \right)
となります。Ctはlog[DNA]0の関数として表現されており(第5回の図(B))、
検量線の傾き=\frac { -1 }{ \log { \left( 1+e \right) } } \cdots \cdots \left( 3 \right)
となります。
ここで、検量線の傾きを求めてみます。
増幅効率が100%(e=1)のとき\quad 傾き=-3.32
増幅効率が85%(e=0.85)のとき傾き=\frac { -1 }{ \log { \left( 1+0.85 \right) } } =-3.74
検量線の傾きが大きくなるほど、PCRの増幅効率が悪くなることが分かります。
では最後に、(3)式を、既知の検量線の傾きから増幅効率を算出する式へと書き換えます。
増幅効率e=\left( { 10 }^{ \frac { -1 }{ 傾き } } \right) -1\cdots \cdots \left( 4 \right)
この(4)式が、検量線の傾きから増幅効率を換算する式です。
検量線の傾きから増幅効率を換算する早見表もあるので、ぜひ、ご活用ください。
このようなちょっとした計算で、みなさんがお使いのプライマーの増幅効率を確認することができます。増幅効率は、検量線を引かないで定量する比較Ct法(ΔΔCt)を行うときに、特に問題となります。これに関しては、この後の講座で詳しく紹介したいと思います。
いかがでしたでしょうか?
次回は、PCRの増幅効率が悪くなる要因について考えます!
【無料ダウンロード】リアルタイムPCRハンドブック
このハンドブックでは、リアルタイムPCRの理論や実験デザインの設計など、リアルタイムPCRの基礎知識が掲載されています。リアルタイムPCRを始めたばかりの方やこれから実験を考えている方にうってつけのハンドブックです。PDFファイルのダウンロードをご希望の方は、下記ボタンよりお申し込みください。
【無料公開中】リアルタイムPCRトラブルシューティング
異常なS字状の増幅曲線、NTCでの増幅検出、増幅が見られないなど、リアルタイムPCRの実験中に困った際の手助けになる情報を紹介しています。PDFファイルのダウンロードをご希望の方は、下記ボタンよりお申し込みください。
研究用にのみ使用できます。診断用には使用いただけません。