新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の収束に貢献したmRNAワクチンにより
一躍注目を集めたmRNAですが、キャップ構造を持つmRNAの合成用キットであるInvitrogen™ mMESSAGE mMACHINE™シリーズは20年以上前から販売をしており、多くのmRNA研究に利用されてきました。
経験から積んだ多くのノウハウと、最新の技術の採用により、高いパフォーマンスのmRNAを高収量で合成できる『Invitrogen™ mMESSAGE mMACHINE™ T7 mRNA Kit with CleanCap™ Reagent AG』が新たに加わりました。
本ブログでは新製品の有効性を実験的に確認したデータをご紹介します。
新製品mMESSAGE mMACHINE T7 mRNA Kit with CleanCap Reagent AGの特長
- TriLink社のCleanCap™ Reagent AG(Cap-1キャップアナログ)を採用
- キャッピング効率が非常に高い(従来製品が約70%のところ新製品は約95%)
- 高い翻訳効率(従来品の10倍以上)
- mRNAの収量が非常に高い(従来品の3倍以上)
≧100 µg/20 µL反応系(スタンダードプロトコル)
≧1 mg/200 µL反応系(スケールアッププロトコル) - 研究用試薬ですが、高品質の前臨床用ブランド(Thermo Scientific™ TheraPure™ブランド)の試薬を採用
- 修飾ヌクレオチドを組み合わせることも可能(N1-メチルシュードウリジンなど )
このキットで合成されたmRNAは、トランスフェクション、治療用mRNAの基礎研究、マイクロインジェクション、in vitro翻訳、RNAの構造と機能の分析など、多くの用途に使用できます※。
※研究用にのみ使用できます。診断用には使用いただけません。人や動物の医療用、臨床診断用、食品用にはご使用になれませんので、ご注意ください。
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Cap-1構造とは?
キャップ構造は真核生物のmRNAの特徴的な構造で、mRNAの5’末端の部分に存在します。キャップ構造はmRNAの翻訳開始を促進する役割を持ち、翻訳の効率性やmRNAの安定性を高めることが知られています。
人工的に合成したmRNAの5’末端にキャップ構造を付加することで、効率的なタンパク質の翻訳ができることが分かっており、mMESSAGE mMACHINEシリーズは 5’末端にキャップ構造を持つmRNA合成用の製品です。
さらにキャップ構造には、Cap-0とCap-1があります。
Cap-1構造 は、真核生物細胞に自然に存在する天然型のキャップ構造で、CleanCap Reagent AGなどのトリヌクレオチドキャップアナログを用いることでmRNAに付加できます。トリヌクレオチドキャップアナログは、mRNAの収量およびタンパク質の翻訳能が高く、従来品に採用されているmCapやARCAなどの Cap-0キャップアナログよりも優れています。Cap-1構造は 細胞の自然免疫応答を回避できるという性質も有しており、現在Cap-1は、mRNA研究のゴールドスタンダードと見なされています。
新製品のmMESSAGE mMACHINE T7 mRNA Kit with CleanCap Reagent AG (製品番号 A57620)では、Cap-1のキャップアナログであるTriLink社 のCleanCap Reagent AGが採用されています。
高収量でmRNAを合成
mMESSAGE mMACHINE with CleanCap Reagent AGのパフォーマンステストのために、サイズの異なる遺伝子の転写を行いました。テストしたのは以下の5種類です。GFP (1 kb)、Cas9 (5 kb)、Gaussia luciferase (0.8 kb)、Firefly luciferase (2 kb)、VEE self-amplifying GFP(10 kb)。全ての遺伝子を20 µLで反応したところ、100 µgを超える収量が得られました。従来製品のAnti-Reverse Cap Analog(ARCA)を採用したmMESSAGE mMACHINE T7 ULTRA Transcription Kit(以後、従来品と記載)の4倍以上の収量でした。
同じCleanCap Reagent AGを採用した他社製品と比較しても、約1.5倍の収量が得られ、比較した製品で最も高い収量のmRNAを高濃度で合成することができました(当社比較)。これはキャップアナログの性能だけでなく、前臨床用の高純度な酵素/基質(TheraPureブランド)を採用し、さらに最適化された反応条件により実現しています。操作はシンプルで、従来品とほぼ同等です。
高いキャッピング効率
mMESSAGE mMACHINE with CleanCap Reagent AGで5種類の遺伝子の転写を行い、キャッピング効率を確認しました。CleanCap Reagent AGは、95%以上のキャッピング効率を実現しました。同じCleanCap Reagent AGを採用している他社製品とは同等の結果でしたが、従来品との比較では、キャッピング効率が改善しています(当社比較)。
高いパフォーマンスのmRNA
mMESSAGE mMACHINE with CleanCap Reagent AG を用いてfLuc mRNA を合成し、Invitrogen™ Lipofectamine™ MessengerMAX™ Transfection Reagent を使用して、25 ngのmRNAをA549(ヒト肺癌上皮細胞)にトランスフェクションしました。24時間後、Thermo Scientific™ Pierce™ Firefly Luc One-Step Glow Assay Kit を使用して細胞中のルシフェラーゼ活性をアッセイし、導入されたmRNAの翻訳レベルを確認しました(同様な試験を比較対象の2製品でも行いました)。mMESSAGE mMACHINE with CleanCap Reagent AGで合成したmRNAは、同じCleanCap Reagent AGを採用している他社製品とは同等な結果でしたが、従来品との比較では、mRNAのパフォーマンスが大幅に改善されました。Cap-1構造は 細胞中の天然mRNAのキャップ構造と同様の構造をしているため、翻訳阻害を回避でき、翻訳効率が改善されます。またCap-1構造のmRNAはデキャッピング(キャップ構造が外れること)が生じにくく、安定的に細胞内で維持されます。こうした性質により高いパフォーマンスが実現できたと予想できます。
幅広いサイズのmRNAを合成
mMESSAGE mMACHINE with CleanCap Reagent AGおよび比較する2製品を用いてサイズの異なる5種類の遺伝子の転写を行いました。テストしたのは以下の5種類です。GFP(1 kb)、Cas9(5 kb)、Gaussia luciferase(0.8 kb)、Firefly luciferase(2 kb)、VEE self-amplifying GFP(10 kb)。反応後のmRNAを電気泳動し、標的のmRNAが特異的に合成されているか確認しました。全ての製品で標的の遺伝子のサイズと一致した単一のバンドを確認できたことから、特異的な転写が行われたと考えられます。mMESSAGE mMACHINE with CleanCap Reagent AGは、最大10 kbのVEE self-amplifying GFP mRNAを高収量で合成しました。
まとめ
新製品のmMESSAGE mMACHINE T7 mRNA Kit with CleanCap Reagent AGは、高収量で高パフォーマンスのCap-1構造のmRNAを合成する有望な製品です。
- mRNAの収量が非常に高い(従来品の3倍以上)
- キャッピング効率が非常に高い(従来品が約70%のところ新製品は約95%※)
- Cap-1構造を持つmRNAを合成(翻訳効率が大幅に改善されます。従来品の10倍以上)
また、従来品のmMESSAGE mMACHINE T7 ULTRA Transcription Kitと比較すると、低価格である点も魅力の1つです。ぜひご利用をご検討ください。
TriLink社の他のCap-1キャップアナログの利用を計画されている場合は、CleanCap Reagent AGが付属されていない Invitrogen™ MegaScript™ T7 Transcription Kit Plusをご利用いただけます。
mMESSAGE mMACHINE T7 mRNA Kit with CleanCap Reagent AG日本語版の簡易操作ガイドをご用意しました!
このブログの最下部にAppendixとして公開しておりますので、ご参照ください。
次回は、mMESSAGE mMACHINE T7 mRNA Kit with CleanCap Reagent AGに使用するDNAテンプレートのデザインと合成にフォーカスしてご紹介します。
DNA/RNAリファレンスガイドPDF版 無料ダウンロード
当社ではRNA抽出やリアルタイムPCR、他にも細胞培養、ウェスタンブロッティングなど、実際に実験(実習)を行いつつ学べる各種ハンズオントレーニングを開催しています。その中で今回のような実験結果もご紹介していますので、これから新たに実験を始められる方、より理解を深めたい方はぜひご参加ください!
今回の記事に関連するページ
従来品(Cap-0キャップアナログ)をベースとした基本編 :
in vitro転写システムでRNA合成を行う際のポイント
製品名 | 反応数 | 製品番号 | 希望小売価格 |
mMESSAGE mMACHINE T7 mRNA Kit with CleanCap Reagent AG | 50 | A57620 | ¥285,000 |
1,000 | A57621 | ¥3,570,000 | |
MegaScript T7 Transcription Kit Plus | 50 | A57622 | ¥89,000 |
1,000 | A57623 | ¥1,305,000 | |
Invitrogen™ MEGAclear™ Transcription Clean-Up Kit | 20 | AM1908 | ¥29,600 |
Invitrogen™ GeneArt™遺伝子合成およびタンパク質合成サービス(Webオーダー) ・Invitrogen™GeneArt™ Strings DNA Fragments ・Invitrogen™ GeneArt™人工遺伝子合成サービス |
Appendix
簡易操作ガイド
mMESSAGE mMACHINE T7 mRNA Kit with CleanCap Reagent AG
製品番号: A57620、A57621
英語版マニュアルからの一部抜粋になります。詳細は英語版マニュアルをご確認ください。英語版マニュアルの内容が優先されます。
スタンダード(20 µL)の反応 (≧100 µg mRNAの合成)
・試薬の準備
凍結した試薬を融解
a. T7 Enzyme Mixは氷中に置く(-20 ℃保存の場合、凍結していない)
b. 10X Reaction Buffer、NTPs、CleanCap Reagent AGは完全に融解するまでボルテックスでミックス
c. 融解後 NTPsとCleanCap Reagent AGは氷中に置き、10X Reaction Bufferは室温に置く(フタを開ける前にスピンダウンしておく)
・試薬の調製
反応ミックスは室温で調製(10X Rection Buffer中のスペルミジンの析出を防ぐため)
PCR用マイクロチューブに 以下の表の上位コンポーネントから順番に添加する
添加量 | コンポーネント | 終濃度 |
最終20 µLになるように調整 | Nuclease-free water | - |
2 µL | 10X Reaction Buffer | 1X |
1.5 µL | 100 mM ATP Solution | 7.5 mM |
1.5 µL | 100 mM CTP Solution | 7.5 mM |
1.5 µL | 100 mM GTP Solution | 7.5 mM |
1.5 µL | 100 mM UTP Solution | 7.5 mM |
1.2 µL | 100 mM CleanCap Reagent AG※1 | 6 mM |
0.5~1 µg | Linear Template DNA※2 | 25~50 ng/µL |
2 µL | T7 Enzyme Mix | - |
※1 CapとNTPの比率は 0.8 : 1 。高いキャッピング効率のためにこの比率を維持することを推奨 ※2 PCR産物の場合:~0.5 µg、直鎖状のプラスミドの場合:~1 µg |
・ミックス
よくミックスする。穏やかにチューブをタッピングするか、穏やかなピペッティングでミックスし、スピンダウンで液をチューブの底に集める
・反応
37 ℃で2時間(サーマルサイクラーのフタの温度は70 ℃に設定)
・(オプション) DNase 処理
DNase Iを1.0 µLを添加しミックスした後、37 ℃で15分間インキュベート
(DNase I 処理はテンプレートDNAを除去するために行う)
・mRNA精製
以下のいずれかの方法で精製することを推奨:
d. MEGAclear Transcription Clean-Up Kit(製品番号 AM1908 :スピンカラム式、最大結合キャパシティ500 µg mRNA/カラム)による精製
e. LiCl沈殿による精製 (英文マニュアル 8ページ以降を参照)
ラージスケール(200 µL)の反応 (≧1 mg mRNAの合成)
・試薬の準備
凍結した試薬を融解
a. T7 Enzyme Mixは氷中に置く(-20 ℃保存の場合、凍結していない)
b. 10X Reaction Buffer、NTPs、CleanCap Reagent AGは完全に融解するまでボルテックスでミックス
c. 融解後 NTPsとCleanCap Reagent AGは氷中に置き、10X Reaction Bufferは室温に置く(フタを開ける前にスピンダウンしておく)
・試薬の調製
反応ミックスは室温で調製(10X Rection Buffer中のスペルミジンの析出を防ぐため)
1.5 mLマイクロチューブに 以下の表の上位コンポーネントから順番に添加する
添加量 | コンポーネント | 終濃度 |
最終200 µLになるように調整 | Nuclease-free water | - |
20 µL | 10X Reaction Buffer | 1X |
15 µL | 100 mM ATP Solution | 7.5 mM |
15 µL | 100 mM CTP Solution | 7.5 mM |
15 µL | 100 mM GTP Solution | 7.5 mM |
15 µL | 100 mM UTP Solution | 7.5 mM |
12 µL | 100 mM CleanCap Reagent AG※3 | 6 mM |
5~10 µg | Linear Template DNA※4 | 25~50 ng/µL |
20 µL | T7 Enzyme Mix | - |
※3 CapとNTPの比率は 0.8 : 1 。高いキャッピング効率のためにこの比率を維持することを推奨 ※4 PCR産物の場合:~5 µg。直鎖状のプラスミドの場合:~10 µg |
・ミックス
よくミックスする。穏やかにチューブをタッピングするか、穏やかなピペッティングでミックスし、スピンダウンで液をチューブの底に集める
・反応
37 ℃で2時間(ドライヒートブロック)
・(オプション)DNase 処理
DNase Iを10 µLを添加しミックスした後、37 ℃で15分間インキュベート。
(DNase I 処理はテンプレートDNAを除去するために行う)
・mRNA精製
以下のいずれかの方法で精製することを推奨:
d. MEGAclear Transcription Clean-Up Kit(製品番号 AM1908:スピンカラム式、最大結合キャパシティ500 µg mRNA/カラム)による精製。1反応当たりカラムは2~3本使用する
e. LiCl沈殿による精製 (英文マニュアル 8ページ以降を参照。10倍にスケールアップして行う)
研究用にのみ使用できます。診断用には使用いただけません。
記載の価格は2024年4月現在のメーカー希望小売価格です。消費税は含まれておりません。
実際の価格は、弊社販売代理店までお問い合わせください。
価格、製品の仕様、外観、記載内容は予告なしに変更する場合がありますのであらかじめご了承ください。
標準販売条件はこちらをご覧ください。thermofisher.com/jp-tc
CleanCap is a registered trademark of TriLink BioTechnologies.