RNA抽出方法の1つにフェノール・クロロホルム抽出があります。フェノールもクロロホルムもどちらも劇物に指定されており、使用者の安全性の面からもなるべく使用を控えたい試薬ではないでしょうか。
今回はクロロホルムの代わりに1-ブロモ-3-クロロプロパンが使用可能なことをご紹介します。
はじめに
クロロホルムは中枢神経に作用する医薬用外劇物で、実験室ではドラフト内で使用することが強く奨励され、法改正により取り扱い管理がより厳しくなっています。主要なRNA抽出方法の1つであるAGPC(Acid Guanidinium Thiocyanate-Phenol-Chloroform extraction)法では、フェノール・クロロホルム抽出により、ゲノムDNAやタンパク質などの夾雑成分を効果的に除去します。以前よりクロロホルムの代替え試薬として1-ブロモ-3-クロロプロパン(CAS RN:109-70-6、以降、BCP)が紹介されており、クロロホルムより低毒性で、さらに添加量が半量で良いため操作性にもたけていると紹介されています。本稿ではBCPの有効性について検証実験を行い、その有効性について確認を行いました。
材料と方法
RNA抽出のサンプルは、マウスの肝臓を細切れにしてInvitrogen™ RNAlater™ Stabilization Solutionに浸漬し-20℃で5年以上保存していたものを用いました。マウス肝臓20 mgに、AGPC法をベースとしたRNA抽出試薬であるInvitrogen™ TRIzol™ Reagentを200 µL加えて、Fisherbrand™ RNase-Free Disposable Pellet Pestles を用いてよくすりつぶしました。サンプルインプット量に起因する誤差を除くため、ホモジナイズしたものをクロロホルム用とBCP用の2つに等量ずつ分けて、RNA抽出操作を継続しました(n=3)。各チューブに900 µLのTRIzol溶液を加えて(Total 1000 mL)ホモジナイズしました。室温で5 minおいて核酸結合タンパク質などを変性させました。
BCPはクロロホルムの半量を使用しますので、クロロホルム使用のサンプルには200 µL、BCP使用のサンプルには100 µL加え、それぞれTotal 1200 µLもしくはTotal 1100 µLにしました。15 sec手で激しく振ることで混合し、室温で2 min静置しました。12,000 g、15 min、4℃で遠心後、水相400 µLを新しいチューブに回収しました。各チューブに500 µLのイソプロパノールを加え室温で10 min静置した後、12,000 g、10 min、4℃で遠心してRNAを回収しました。
回収したRNAは70%エタノールで一度リンスし、7,500 g、5 min、4℃で沈殿させた後に風乾させ、最終的には50 µLのInvitrogen™ Nuclease-Free Water で溶解しました。抽出したRNAの評価は、Thermo Scientific™ NanoDrop™ OneCおよびAgilent社Bioanalyzer(Agilent RNA6000ピコキット)を用いて測定することで実施しました。
結果と考察
上記の方法で、クロロホルムとBCPを比較しました。結果は、どちらの試薬を使用しても、問題なくRNAを抽出することができました(表1)。クロロホルムをBCPに置き換えることにより、中間層の夾雑成分が密に凝集されます。これはBCPがクロロホルムよりも疎水性の高い有機溶媒であるためと考えられます。これにより上清の回収操作がしやすくなり、不溶性の夾雑成分のコンタミネーションを防ぐことができるので、イソプロパノール沈殿後のRNAペレットの溶解がスムーズになることが予想されます。このためにRNAの収量が若干高かったのだと考えられました。
さらに、濃度以外のRNA品質の指標として、A260/A280、A260/A230、RINを比較しましたが、使用した試薬の違いで大きな差は見られませんでした(表1)。この結果から、TRIzol™ Reagentを使ってRNA抽出する際、従来はクロロホルムを使用するプロトコルですが、半量のBCPでも代替可能であることをお示しできました。
いかがでしたでしょうか。
今回は、TRIzol Reagentを使ってRNA抽出する際に、クロロホルムをBCPで代替可能であることをご紹介しました。劇物であるクロロホルムの使用量の削減や、使用者の安全性の確保のために、BCPの使用を検討されても良いかもしれません。
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