はじめに
電気泳動では次の2式が意義を持ちます。
- V = IR (電圧=電流×抵抗)
- W = IV (ワット数=電流×電圧)
抵抗は泳動中のゲルの数と厚さ、および用いる緩衝液の種類によって決定されます。電気泳動が進むにつれ、ゲル緩衝液中の高速で移動し導電率の高い塩化物イオンが、ランニング緩衝液中の移動が遅く導電率の低いイオン(グリシンやトリシンなど)によって置換されます。その結果、電気泳動が進行するにつれ系の抵抗が徐々に上昇します。
定電圧
たいていの用途には定電圧の設定をお勧めします。これには二つの理由があります。ひとつは定電圧を用いることにより抵抗の増加に応じて電流とワット数が減少する点です。オームの法則によりワット数(発熱)も減少するので、電気泳動が進行するときの安全域が確保できます。もうひとつは泳動させるゲルの数(または厚さ)とは無関係に同じ電圧設定を用いることができる点です。これは定電流や定ワット数でゲルを走らせる場合には当てはまりません。
定電流
定電流設定を用いると、泳動の間に抵抗が増加するにつれ、必要条件V=IRを満足させるために電圧が上昇します。電圧に制限を設けずに接触不良などの欠陥が生じると、極めて局所的に高抵抗がおこるため電圧が急激に上昇します。その結果、過剰に発熱してゲルや装置が損傷を受けることがあります。定電流条件で電気泳動を行なう際は、電源の電圧を電気泳動の間に到達すると予想される最高電圧あるいはそれより少し上に制限しておくことが重要です。
定ワット数
定ワット数を用いると電流が減少するにつれ電圧は上昇しますが、システムが発生する発熱の総量は一定です。しかし、万一回路の一部分が故障すると、その部分での高抵抗のため高く発熱することがあります。電圧を制限していない高電圧電源を用いていると、このためゲルや装置が大きく損傷されることがあります。
ブロッティングにおける電源
転写や分離の際にも同様の電気作用が適用されます。しかし、電極間を移動しなければならない距離(ゲルの厚さ)は、ブロッティング中は分離中よりはるかに短くなるので、低電圧と低い場の強さ(電場の強度、電圧/距離)が必要です。一方、電気が流れる断面積ははるかに大きいので高電流が必要です。
ブロッティングにおける電源の必要条件は場の強度(電極の大きさ)と転写緩衝液の導電率に依存します。泳動全体では緩衝液中のイオンが分極するにつれ電流が低下しますが、これら(場の強度と転写緩衝液の導電率)が高いほど電流の必要条件も高くなります。したがって、最初の高電流の要求を満足する電源を用いることが重要です。また、電力が単方向に流れるようによく整流された電源を用いることも重要です。交流が大きく変動するとブロッティング電極が腐食することがあります。
等電点電気泳動における電力
等電点電気泳動では、安定なpH勾配が形成されタンパク質がその等電点に到達するまでタンパク質が電場中を移動します。そのとき高い仕上げ電圧をかけて極めて狭いゾーンにタンパク質を集束させます。アンフォライト(両性担体)の動きによって生じる電流が大きな発熱を引き起こすため、初期の段階では高電圧をかけることはできません。その代わりに定ワット数をかけると、電流が減少するにつれ電圧が自動的に上昇します。
【無料ダウンロード】タンパク質解析ワークフローハンドブック
効率的なタンパク質抽出からウェスタンブロッティングの解析ツールまで、包括的にソリューションを紹介しております。PDFファイルのダウンロードをご希望の方は、下記ボタンよりお申込みください。
研究用にのみ使用できます。診断用には使用いただけません。