シーケンス解析の結果、塩基配列を解読できなかった場合、考えられる要因のひとつに、十分な強度のシグナルが得られていないことがあげられます。本ブログでは、シーケンス解析データのシグナル強度の確認方法と、強度が十分でなかった場合の原因と対処法をご紹介いたします。
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シグナル強度の確認方法
シーケンス解析データのシグナル強度は、Applied Biosystems™ Sequencing Analysisソフトウエア、または、Thermo Fisher™ Connect PlatformのアプリであるQuality Checkからご確認いただけます。本ブログでは、Sequencing Analysisソフトウエアからのデータ確認手順をご紹介します。Quality Checkでの確認方法は、こちらをご参照ください。
Sequencing Analysisソフトウエアを起動し、図1の手順で、データを確認したいサンプルファイル(.ab1)を読み込みます。「Show」のチェックボックスをクリックし、Rawタブを選択します(図2)。表示されるRaw Dataのピーク高は、ジェネティックアナライザで検出された蛍光シグナルの強度を示します。シーケンス解析がうまくいかなかった場合、シグナル強度が適切でない恐れがあります。低シグナル、または、シグナルがない場合のデータ例、予測される原因と対処法を、以下にご紹介します。
なお、Electropherogramタブからは、Raw Dataを補正した波形であるElectropherogramを確認できます。
シーケンス反応物由来のシグナルがない場合
シーケンス反応物由来のシグナルが検出されていない場合、Raw Dataでは、図3に示すように、ピークがみられず、ベースラインのみが表示されます。ピークがないため、ベースラインが拡大された縦軸表示になっており、縦軸の数値を確認すると、0付近を推移していることがわかります。このとき、Electropherogramでは、不規則な波形が表示されます。トラブルの原因を正しく把握するために、Raw Dataを確認することが重要です。
シグナルがない場合に予測される原因と対処法は以下の通りです。
予測される原因 | 対処法 |
インジェクションの失敗 | ・ウェル内の液量を確認し、少ない場合は十分な量のサンプルを再調製する(※1) ・使用したランモジュールが適切か確認する(※2) ・指定のプレート・8連チューブを使用しているか確認する ・キャピラリが破損していないか確認する |
サンプルの溶解に水が使用されているため、蒸発し液量が減った | ・Applied Biosystems™ Hi-Di™ Formamideを使用してサンプルを再調製する |
キャピラリが破損している | ・キャピラリを確認し、破損が見つかった場合はキャピラリアレイを交換する ・同じキャピラリに繰り返しエラーが見られる場合も交換する |
テンプレートまたはサンプルが多過ぎるため、一時的にキャピラリが目詰まりした | ・サンプルを再インジェクションする |
※1 10 µL以上。Applied Biosystems™ BigDye™ XTerminator™ 精製キット専用のランモジュール使用の場合は65 µL以上
※2 通常のランモジュールを使用すべきサンプルに対し、誤ってBigDye XTerminator精製キット専用のランモジュールを使用している場合など
蛍光ターミネーターのシグナルのみの場合
シーケンス反応では、蛍光標識ジデオキシヌクレオチド(蛍光ターミネーター)を用いることで、伸長産物に蛍光が標識されます。シーケンス反応がうまくいかず、反応に使われなかった蛍光ターミネーターが多く残存した場合、精製により除去しきれず、ピークとして検出されることがあります(図4)。
予測される原因と対処法は以下の通りです。
予測される原因 | 対処法 |
テンプレート量が少ないため、シーケンス産物が少なくなりすぎている | ・DNAの濃度と品質を確認する |
シーケンス反応試薬のいずれかを入れ忘れている、または劣化している | ・実験手順を確認する ・試薬の濃度と品質を確認する ・コントロールDNAテンプレートとプライマー(※3)を用い、シーケンス反応が失敗しているのか、テンプレートやプライマーの品質が低いのかを判断する |
テンプレートにフェノールなどのシーケンス反応阻害物質が含まれている | ・推奨される手順に従い、テンプレートを調製する ・DNA品質を確認する ・必要に応じて、テンプレートを精製する |
プライマーの設計が悪いため、プライミングされない | ・新しいプライマーを作成し、実験をやり直す |
シーケンス産物の精製時のロス | ・シーケンス産物の精製手順を見直す |
※3 シーケンシングキットには、コントロールDNAとプライマーが付属しています。これらを用いることで、失敗の原因が、テンプレートやプライマーにあるかどうかを判断しやすくなります。
全体的に低シグナルの場合
Raw Dataで、シーケンス反応産物由来のピークが検出されているものの、そのシグナル強度が低い場合(図5)、良好なシーケンス解析結果を得ることができません。シグナル強度はRaw Dataからも確認できますが、Sequencing Analysisソフトウエアの「Annotation」タブに示される「Ave Signal Intensity」でも確認できます。Ave Signal Intensityには、塩基ごとの平均シグナル強度が表示され、この数値が1~2桁の場合、シグナルが不十分と考えられます。
シグナル強度が十分でない場合、下記の原因が考えられます。
予測される原因 | 対処法 |
シーケンス反応が失敗 | ・コントロールDNAテンプレートとプライマーを使用してシーケンス反応を行い、原因を考察する |
Ready Reaction Mixの量が不十分 | ・Ready Reaction Mixを希釈している場合は、標準プロトコルで反応液を調製する |
サイクルシーケンス反応のプライマーまたはテンプレート量が不十分 | ・DNA量を確認し、推奨される量(※4)を使用する |
テンプレートの品質が低い | ・推奨される手順に従い、テンプレートを調製する ・DNAの品質を確認する ・必要に応じて、テンプレートを精製する |
シーケンス産物の精製時のロス | ・シーケンス産物の精製手順を見直す |
サンプル溶液に含まれる塩により、サンプルのインジェクションが阻害されている(精製の不十分なテンプレート、PCR産物からの塩の残留、または、シーケンス反応後のエタノール沈殿物の塩の残留) | ・DNA品質、PCR精製、シーケンス反応の精製手順を確認する |
※4 サイクルシーケンス反応で推奨されるプライマー量は、3.2 pmolです。テンプレートの推奨使用量は、下表のとおりです。
DNA template | Quantity | |
PCR product | 100~200 bp | 1~3 ng |
200~500 bp | 3~10 ng | |
500~1,000 bp | 5~20 ng | |
1,000~2,000 bp | 10~40 ng | |
> 2,000 bp | 20~50 ng | |
Single-stranded DNA | 25~50 ng | |
Double-stranded DNA | 150~300 ng | |
Cosmid, BAC | 0.5~1.0 µg | |
Bacterial genomic DNA | 2~3 µg |
まとめ
シーケンス解析がうまくいかない場合、さまざまな要因が考えられます。今回は、シグナルが低い場合についてご紹介しました。その他の要因についても、今後ご紹介していく予定です。
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