動物細胞培養の場合、増殖速度が穏やかであり、細胞自体が繊細であるため、撹拌速度を抑えたマイルドな環境での培養が適しています。一方で、大腸菌や酵母といった微生物は動物細胞と比較して増殖速度が非常に速く、それに伴い酸素要求量も大きくなります。
これらのことから微生物培養には、動物細胞を培養するバイオリアクターを改良したものではなく、微生物培養専用のファーメンターが必要とされています。今回は記事を2回に分けて、微生物培養専用に開発されたThermo Scientific™ HyPerforma™ Single-Use Fermentorの特長とシングルユース製品を使用したワークフローを実際の培養事例を交えながら紹介します。前編ではHyperforma Single-Use Fermentorの特長とシングルユース製品を使用したワークフローを紹介し、後編では実際の培養事例を2つご紹介します。
▼こんな方におすすめです!
- 動物細胞を培養するバイオリアクターを改良したものではなく微生物培養に適した性能を有するファーメンターを探している
- 微生物培養の要求に応える撹拌効率や高流量排気システムを有するファーメンターを探している
- シングルユースワークフローについて知りたい
- ファーメンターを使用した培養事例を知りたい
▼もくじ
微生物培養の要求に応える撹拌効率![微生物培養の要求に応える撹拌効率](https://www.thermofisher.com/blog/learning-at-the-bench/wp-content/uploads/sites/13/2023/04/single-use-fermentor-bpg-1-01.jpg)
今回ご紹介するHyPerformaシングルユースファーメンターは、微生物培養専用に開発されたシングルユースファーメンターです。その特長として、撹拌翼(インペラ)、バッフル、そして、動物細胞培養用のリアクターに比べ、激しい発泡や通気でも排気ラインが詰まらないようにヘッドスペース(培養液が入っていない気相部分)が高く設計されています。
前述の通り、微生物培養を行う際には高い酸素要求に応える必要があり、そのためには高い撹拌性能を持つファーメンターが必要です。HyPerformaシングルユースファーメンターは、3段のラシュトン型インペラとバッフル板を採用することで、一般的なステンレス製リアクターと同等のkLaを得られるように最適化されています。
30 Lと300 Lのベッセルは、どちらも高さと直径のアスペクト比が3:1に設計されており、ターンダウン比は5:1で、30 Lサイズでは6 L、300 Lサイズでは60 Lから培養することが可能です。プロセス開発から製造へ移行する際には、それぞれフラスコ若しくはベンチトップ発酵槽からシングルユースファーメンターへと簡単にスケールアップすることができます。
微生物培養の高い酸素要求に対応する高流量排気システム![微生物培養の高い酸素要求に対応する高流量排気システム](https://www.thermofisher.com/blog/learning-at-the-bench/wp-content/uploads/sites/13/2023/04/single-use-fermentor-bpg-1-02.jpg)
前述の通り、大腸菌や酵母といった微生物は、動物細胞よりも急激に増殖するため、酸素要求量が高くなり、それに伴い培養時の気体吹き込み量、撹拌速度は高くなります。液中通気量が多くなると排気ラインから排出される気体の量も多くなるため、排気ラインのフィルターが詰まらないように工夫を施す必要があります。HyPerformaシングルユースファーメンターの排気システムは、上図に示すような形状をしており、通常1つ若しくは2つのベントフィルターがついています。結露によるベントフィルターの詰まりを防ぐ仕組みとして、冷却板を使用したコンデンサーシステムがあります。これにより、ベントフィルターの詰まりを軽減するだけでなく、培養液の過度な蒸発を防ぐ役割も果たしています。一般的なステンレス発酵槽は500 mbar程度まで圧力耐性を有していますが、シングルユースファーメンターの動作圧はシングルユースバッグに依存し、35 mbarまでとなっています。微生物培養の高い酸素要求に答えるために、フィルターの表面積を最大化し、単一フィルター使用時で2 vvmまでエアーの吹き込みを可能にしました。また、HyPerformaシングルユースバイオリアクターと同様に、フォームセンサーを搭載しており、泡を検知して消泡剤を投与することも可能です。
ステンレス槽からシングルユースへ切り替える4つのメリット![ステンレス槽からシングルユースへ切り替える4つのメリット](https://www.thermofisher.com/blog/learning-at-the-bench/wp-content/uploads/sites/13/2023/04/single-use-fermentor-bpg-1-03.jpg)
ステンレス発酵槽からシングルユースファーメンターへ切り替えることで、上図に示す4つのメリットが得られます。まず、バッチの切り替え時間の短縮が挙げられます。ステンレス製の部品や配管はバッチごとに蒸気洗浄滅菌する必要がありますが、シングルユース製品は事前にガンマ線照射にて滅菌されているので、スムーズに次のバッチへ移行できます。また、培養に使用するバッグやチューブ類はバッチごとに交換するため、洗浄や洗浄バリデーションの必要性を減らすことができ、クロスコンタミネーションリスクも低減できます。さらに、機器設置面も小さく済みます。ステンレス発酵槽では、滅菌や洗浄のために相当量の設備が必要です。シングルユース製品では、高額なステンレスプロセスと、洗浄や蒸気滅菌のための関連ユーティリティープラントを必要としないため、必要な設備が少なく、機器設置に要するスペースも抑えられます。また、プラスチックやシリコンチューブは、ステンレス製の配管よりも簡単かつ迅速に変更することができるため、プロセスの柔軟性も向上し、特に受託製造開発機関(CDMO)に適した環境を作ることができます。
シングルユースワークフローについて
シングルユースワークフロー:培地調製
ここからは実際のワークフローを紹介します。まず、培地調製を行います。粉末培地を粉末用シングルユースバッグThermo Scientific™ PowderTainer™に量りとり、シングルユースミキサーに溶媒となる水とともに投入します。粉末培地が完全に溶解するまで撹拌後、フィルター濾過してシングルユースファーメンターへ移します。
シングルユースワークフロー:発酵プロセスの準備
PH調整に使用する酸・塩基溶液、消泡剤、フィード溶液は、培養開始後にファーメンターへ添加できるようにコネクターやウェルダーを使用してシングルユースバッグに接続しておきます。種培養液をシングルユースバッグに無菌接続し、シングルユースファーメンターへ播種して培養を開始します。
この際、微生物発酵に使用するバイオプロセスコンテナはお客さまの用途に合わせてポートの追加などのカスタムが可能です。
シングルユースワークフロー:発酵プロセスを担うコントローラー
実際の発酵プロセスにおいて、温度やpH, DOなどの制御を担うのはコントローラーです。HyPerforma シングルユースファーメンター向けのコントローラーとしては、こちらに示す3つのオプションがあり、いずれもDeltaVプラットホーム上でワークするThermo Scientific™ TruBio™ソフトウエアを搭載しており、溶存酸素濃度やpH、温度を細かく制御することができます。最も規模が大きいものはThermo Scientific™ HyPerforma™ G3Pro controllerで、GMP施設向けに設計されており、大型のリアクターや、複数台のリアクターの制御が可能です。Thermo Scientific™ HyPerforma™ G3Lite controllerはパイロットスケールに適しており、G3Pro controllerよりも小さなフットプリントで設置が可能です。HyPerforma G3 Labはその名の通り、研究室にも設置できるようにコンパクトに設計されており、Thermo Scientific™ HyPerforma™ベントトップ型ガラス製バイオリアクターから50 LのThermo Scientifc™ DynaDrive™シングルユースバイオリアクターまでを制御できるコントローラーです。いずれも同じインターフェースを使用しているので、研究開発から商用規模までHyPerformaのコントローラーを使用することでスムーズなスケールアップが可能になります。
シングルユースワークフロー:細胞分離オプション
続いて、微生物発酵終了後の回収工程で使用する遠心分離機のご紹介です。Thermo Scientific™ Sorvall™ BIOS 16バイオプロセス遠心分離機は低せん断で一度に16 Lを処理することができます。菌体量にもよりますが、おおよそ15分でペレット化することができます。300 Lの培養液がある場合、2台稼働させると約3時間で全量の回収が可能です。
以上、前編では、微生物培養専用に開発されたHyperforma Single-Use Fermentorの特長とシングルユース製品を使用した培地調製、発酵プロセスから細胞分離までのワークフローをご紹介しました。後編では、実際にファーメンターを使用した実際の培養事例を二つご紹介させていただきます。
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研究用または製造用にのみ使用できます。診断目的の使用、ヒトおよび動物への直接的な使用はできません。