原因遺伝子の変異を伴う遺伝性疾患の解析は時に複雑性を極めます。脊髄性筋萎縮症(Spinal Muscular Atrophy: SMA)もその一つです。
脊髄性筋萎縮症は、第5番染色体に責任遺伝子を持つ常染色体潜性遺伝(劣性遺伝)性疾患で、1/54~1/57の保因者頻度と言われ、6,000~10,000人の出生で1人の発症率(国内では10万人当たり、1~2人)です。時間の経過とともに悪化する深刻な病状で、第5番染色体にあるSMN1遺伝子の両コピーの変異によって引き起こされます。
脊髄の運動神経細胞の病変によるもので、SMAには4つのタイプがあります。重度であるタイプⅠは、乳幼児期に体幹や四肢の筋肉が充分に発達せず、尊い命を落としてしまいます。軽度であるタイプⅣは若年成人期に発症しますが、SMA患者のおよそ6割が深刻な影響を受け、幼児期に亡くなります。
SMN1遺伝子の変異が原因のこの疾患ですが、SMN2というバックアップ遺伝子が存在します。この記事では、二つの相同性の高い遺伝子の疾患へのかかわりを紐解きます。
相同性の高い遺伝子が遺伝性疾患の解析を複雑にする
SMAの原因となる変異の大部分は、欠失、または染色体異常です。SMN1変異の保因者を特定する際の複雑さは、ヒトには第5番染色体に位置するSMN1とSMN2のほぼ同一のコピーが二つあることです。SMN1とSMN2の主な違いは、エクソン7の5’末端側にあります。SMN1の「C」とSMN2の「T」の1つの塩基に違いがあります。さらに、SMN1のmRNAには、エクソン7が含まれますが、SMN2のmRNAは、スプライシングにより一般的にエクソン7が除かれています(図1)。エクソン7の存在は、完全に機能する安定したSMNタンパク質の生成に重要です。

図1 SMAを発症するSMN1変異
SMA患者の約5%には、第5番染色体の長腕の一方に欠失または、遺伝子上に染色体異常があり、もう一方の染色体に点突然変異があります。SMN1遺伝子のコピーが一つしか失われていないため、この突然変異の組み合わせ(欠失または染色体異常のある点突然変異)を持つ検体は、SMA診断テストを実施してもSMAとして診断されません。むしろ、この人はSMAの症状があるとしても、定量的キャリアテストを使用したキャリアのように見えます。
欠失と染色体異常の両方のシナリオで、SMA患者はSMN1エクソン7のホモ接合性欠失と呼ばれるSMN1エクソン7の欠落がみられます。SMA患者はSMN1に変異を持っていますが、常に少なくとも一つのSMN2の正常なコピーを持っています。両方の遺伝子のホモ接合性の喪失は報告されておらず、致命的なものであると考えられています。

図2 SMAにおけるSMN1遺伝子変異の伝播
一部の保因者は、一方の染色体にSMN1が2コピーあり、もう一方の染色体にSMN1欠失がある(2+0のSMAキャリアステータス)と確認されており、サイレントキャリアと呼ばれています。
SMAに罹患した子供を持つことは、2人のSMA保因者間、または、SMA保因者とSMA患者との間の妊娠で発生します。これらの家族では、以下のような妊娠のケースが含まれます。
- SMAの影響のある出生率は25%
- SMAキャリアになる出生率は50%
- SMAを持たず、SMAキャリアではない出生率25%
現状の検査体制
臨床検査所見
- 血清のクレアチンキナーゼ(creatine kinase: CK)値が正常上限の10倍以下。
悪化している筋肉から漏れ出ているが、非特異的である。 - 筋電図で高振幅電位や多相性電位などの神経原性所見がある。
- 運動神経の伝導速度が、正常下限の70%以上。
SMAが疑われる場合は、遺伝学的検査を受診できます。これは、全タイプの第5番染色体関連SMAを特定するための最も侵襲性が低く、最も正確な方法です。キャピラリ電気泳動(CE)と次世代シーケンシング(NGS)の両方で配列決定が可能です。
新しいマイクロアレイベースのキャリアアッセイには、SMAの変異だけでなく、他の約600の遺伝性疾患の変異も含まれます(図3)。

図3 CarrierScan 1S assay: キャリアスクリーニング研究を拡張する一つのソリューション
これは、SMN Reporterモジュールの⼀部としてSMN1ステータスの解析を含み、SMN1が簡単に視覚化されたコピー数状態のサマリーを、自動エクスポートによって、下流アプリケーションに適したタブ区切りテキストファイルとPNGグラフィックファイルの形式で作成します。
SMN Reporter
SMN Reporterは以下を含みます。
- SMN1をベースとしたキャリアステータスを決定する新しいアルゴリズム
- SMNコピー数のグラフィック表示
- 自動化された単一サンプルの画像出力をサポート
コピー数解析でお困りの方は、NGSやマイクロアレイのサービスを検討してみてください。
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