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GCリッチな配列のPCRもPlatinum SuperFi DNA Polymeraseで高収量に回収
和田俊輔氏(京都大学iPS細胞研究所(CiRA)未来生命科学開拓部門 博士研究員)
小松リチャード馨氏(同研究室 大学院生)
「人工的に合成したRNAを細胞へ導入し、さまざまな環境に応じて目的の遺伝子の発現を制御するスイッチシステムを研究しています。この回路がうまく働けば、分化処理後にわずかに残るiPS細胞の除去も、抗体やセルソーターを使わずに効率よく行えるはず。しかも細胞内でRNAは分解されるので、臨床応用も想定しています」。こう語るのは、京都大学iPS細胞研究所の和田俊輔氏(写真左)と小松リチャード馨氏(写真右)。京都大学の齊藤博英研究室で、合成生物学的アプローチからiPS細胞研究に取り組んでいます。
翻訳を制御する人工RNAスイッチの合成
特定の細胞を選別する人工RNAスイッチはどのような原理で機能するのでしょうか。「miRNAを介するRNAサイレンシングの原理を利用しています。例えば、選別したい細胞があれば、その細胞に特異的に発現する/しないmiRNAを指標にスイッチを設計します。miRNAは相補配列を有するmRNAの翻訳を阻害するので、指標とするmiRNAの相補配列を人工的に合成し、任意のタンパク質をコードするmRNAの5’UTR部分に配置し、細胞へ導入します。そうすればこのmiRNAが存在しなければ導入したmRNAからタンパク質が合成されますが、miRNAが存在すると導入したmRNAは分解されて任意のタンパク質は合成されません」と和田氏は説明します。この時、任意のタンパク質を蛍光タンパク質にすれば、細胞の分化具合をリアルタイムにモニターでき、薬物耐性やアポトーシス関連のタンパク質にすれば、細胞の選別が行えるという画期的な技術です。この方法を利用することで、齊藤教授らのグループは、2015年にiPS細胞から分化させた心筋細胞中に残存する未分化のiPS細胞を選別できることを報告しました。また2016年にも、同じくiPS細胞から分化させた神経細胞中に残るiPS細胞や未分化の細胞を選別できることを示しました。
GCリッチなターゲットも正確に増幅したい
この研究の一環で、和田氏は半年前からmRNAのライブラリーを作製中です。「最初に試した数種の酵素だと、泳動後のバンドがぼんやりとスメアになり、収量も高くありませんでした。明確な原因がわからないまま、条件検討に取り掛かる予定でしたが、ちょうどサンプルでもらった新製品のSuperFi DNA Polymeraseを試してみたところ、マニュアル通りの条件で最初からうまくいきました。バンドがシャープになり、収量もプライマー量から推測される量に達し、以前のおよそ倍くらいになりました。作製中のライブラリーは類似配列が多く、PCRの正確性は重要なポイントです。その点、プルーフリーディング活性を有し、フィデリティが保障されていることも安心ですね」といいます。「それからマスターミックスも入っているので使いやすく、他の実験でもSuperFi DNA Polymeraseを使う様になりました。実験の効率を考えると、価格よりも性能ですね」と続けます。また小松氏は「ある種の機能性RNAはGCリッチな配列を含んでいます。ですからPCRの際に鋳型となるDNAもGCリッチですが、この酵素は問題なく使えますね」と話します。
合成生物学とiPS細胞研究の融合から、再生医療へアプローチ
スイッチ機能をもつmRNAは、再生医療への応用が期待されます。「分化誘導した細胞集団の中にiPS細胞や未分化な細胞が残っていると、奇形腫の形成につながる懸念があります。このスイッチを活用することでiPS細胞や未分化な細胞を特異的に識別して自動的に除去することができます。またmRNAは最終的に分解され、ゲノムを傷つける心配もありません。細胞へのダメージが低く、安全性が高い手法として、将来的には臨床応用を目指しています」と和田氏と小松氏は研究の発展性を語ります。
Taq の100倍を超えるフィデリティを実現!
Platinum SuperFi DNA Polymerase
Invitrogen™ Platinum™ SuperFi™ DNA Polymeraseはプルーフリーディング活性を有するDNAポリメラーゼです。GCリッチ領域やロングリードなど増幅困難なターゲットにも有効。グリーンバッファーを利用すれば直接ゲルへロードできます。
ライフサイエンス情報誌「NEXT」
当記事はサーモフィッシャーサイエンティフィックが発刊するライフサイエンス情報誌「NEXT」2016年12月号からの抜粋です。
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