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Accelerating ScienceLearning at the Bench / 研究者インタビュー / 中枢神経系の発生と再生研究から多岐に亘る臨床応用へ(慶應義塾大学 医学部生理学教室 岡野栄之氏、石川充氏、前田純宏氏)-「NEXT」2017年12月号掲載

中枢神経系の発生と再生研究から多岐に亘る臨床応用へ(慶應義塾大学 医学部生理学教室 岡野栄之氏、石川充氏、前田純宏氏)-「NEXT」2017年12月号掲載

Written by LATB Staff | Published: 09.30.2018

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  • 中枢神経系の発生と再生研究から多岐に亘る臨床応用へ
  • 疾患iPS細胞から神経細胞の誘導へ
  • 分化細胞のviabilityが向上
  • 基礎研究の成果を応用へつなぐ
  • 神経細胞培養のスタンダードがさらに進化 B-27 Plus Neuronal Culture System
  • ライフサイエンス情報誌「NEXT」

中枢神経系の発生と再生研究から多岐に亘る臨床応用へ

岡野栄之 氏(慶應義塾大学 医学部生理学教室 教授)
石川 充 氏(慶應義塾大学 医学部生理学教室 特任助教)
前田純宏 氏(慶應義塾大学 医学部生理学教室 助教)

岡野栄之 氏(慶應義塾大学 医学部生理学教室 教授)「中枢神経系の発生と再生」を研究の中心に置き、基礎研究の成果を進化させて力強く臨床応用を目指す慶應義塾大学の岡野栄之氏。iPS細胞を使った再生医療、疾患の病態解明や創薬研究、霊長類の脳科学など、幅広い分野の研究を精力的に進めています。「iPS細胞から誘導した神経前駆細胞を移植する脊髄損傷の臨床試験はすでに特定認定再生医療等委員会に申請済み。認可されればいつでも始められる状態」と現状を語ります。

一方、アルツハイマー病やパーキンソン病、ALSを始め、さまざまな神経系の疾患iPS細胞を作製し、精力的に応用研究を進めています。「それぞれの疾患で障害をうける神経細胞は異なります。そのためiPS細胞を疾患に合わせて分化させることが必要。この時に問題となるのは、iPS細胞から誘導した神経細胞の成熟度」と指摘します。岡野研究室で研究を進める石川充氏と前田純宏氏とともに、岡野氏にお話を伺いました。

疾患iPS細胞から神経細胞の誘導へ

「疾患iPS細胞から特定の神経細胞を分化誘導する場合、iPS細胞へ複数の遺伝子を導入し、神経幹細胞を経ずに時間を短縮する方法があります。通常では神経細胞を得るのに1-2か月ほどかかりますが、この方法であれば20日ほどで神経細胞の実験ができるようになります。ただし短時間で分化させるので、細胞に対するストレスが大きいのか、培養中に結構細胞数が減少することが気になっていました」と石川氏は、神経細胞の長期にわたる分化誘導の難しさを語ります。また岡野氏は「iPS細胞を神経細胞に分化させて実験を行う場合、分化しなかった幼若なiPS細胞が残存することや、神経細胞への成熟度が足りず、遅発性神経疾患のモデルには適さない場合があります」とiPS細胞から誘導した神経細胞が超えるべきハードルを指摘します。「しかし解決法を求めて次々と開発される新しい培養関連製品を検定していたら、自分たちの標準法を変更する可能性もあり、いつまでも系が安定しない状況に陥る危険があります。今回は、神経細胞の培養に継続的に使用しているB-27 Supplementの新製品ということもあり、試してみることにしました。手間はかかってもやって良かったと思います」と岡野氏。今後、培養系をさらに検証し、活用していく予定とか。今年8月末から開始されたAMEDの「神経疾患特異的iPS細胞を活用した病態解明と新規治療法の創出を目指した研究」プロジェクトでの活用も見込まれます。

分化細胞のviabilityが向上

実際に比較実験を担当した石川氏と前田氏は、B-27 Plus Supplement とNeurobasal Plus Mediumからなる新しい培養系を次のように評価します。「これまで研究室で独自に開発した培地や他社培地とともにB-27 Supplementを使用してきたので、新しい培養系の比較検討は、従来法を含め、多くの組み合わせで行いました。遺伝子導入後、分化用培地に取り換えた後に、これまでは維持できる細胞数がかなり減少していましたが、新しい培養系では減少することなく、しかも形態観察から細胞のviabilityが高いこと、また遺伝子発現解析から神経細胞としての成熟度が高い可能性が示唆されました」と石川氏は検討結果を説明します。今後、神経細胞以外を排除するGibco™CultureOne™ Supplementとの併用も視野にいれているほか、「神経系のスフェロイド培養にも有用かもしれない」と続けます。またアルツハイマー病の研究を進める前田氏は、「マウスを使って神経幹細胞の初代培養で比較してみましたが、やはりviabilityが高いという印象でした。またヒトiPS細胞から神経細胞へと誘導する系においても、神経細胞の成熟度がこれまでよりも高く長期培養にも向いていそうです(図)。現在、アルツハイマー病で注目されている抑制性神経細胞と興奮性神経細胞のバランスをin vitro で評価する系において、電気生理活性の測定など、成熟した神経細胞でしかできない実験を試してみたい」と今後の研究の展開を語ります。

ヒトiPS細胞から神経細胞への分化誘導後40⽇目 左: 従来の神経細胞⽤培地 右: Neurobasal Plus/B27 Plus

[ヒトiPS細胞から神経細胞への分化誘導後40⽇目 左: 従来の神経細胞⽤培地 右: Neurobasal Plus/B27 Plus]
画像提供:田邊寛和氏(慶應義塾大学 共同研究員)使用細胞: ヒトiPS細胞201B7 京都大学より入手

基礎研究の成果を応用へつなぐ

岡野氏の研究室では、共同研究を含め、今年一年だけでも非常に多くの成果を発表しています。移植関係では、老年マウス脊髄損傷における神経幹細胞移植の有効性の証明と病態解明を行い、高齢期脊髄損傷に対する機能回復につながる可能性を示しました。来年にも実施可能性が高い亜急性期における脊髄損傷の臨床試験に続き、慢性期の脊髄損傷の臨床研究への期待が膨らみます。また神経難病に関しては、これまで神経系に分化しにくいことが知られているヒト末梢血から作製したiPS細胞を効率的に神経幹細胞に誘導する技術を開発し、パーキンソン病の病態を再現できることを示しました。今後、この方法を用いて数千人のパーキンソン病の患者さんから、世界に類をみない大規模のパーキンソン病iPS細胞バンクを共同研究先の順天堂大学とともに構築し、パーキンソン病の病態研究や再生医療を促進していくそうです。また新規の神経幹細胞制御因子としてQuaking5の機能解明の論文発表や、3つの小分子化合物を用いたヒトiPS細胞の分化能力を促進する基盤技術も開発しました。基礎研究から臨床研究まで幅広いスペクトラムで神経科学と再生医療をけん引する岡野氏らの研究に益々注目が集まりそうです。

神経細胞培養のスタンダードがさらに進化
B-27 Plus Neuronal Culture System

B-27 Plus Neuronal Culture System

神経細胞培養のスタンダードとして幅広く使用されているB-27サプリメント製品に、さらにパフォーマンスを向上させた”B-27 Plus” が登場しました。新しいGibco™ B-27™ Plus Neuronal Culture System を使えば、従来よりも神経細胞の生存率が50%以上向上し、成熟度および電気生理学的活性が改善されます。

B-27 Plus Neuronal Culture Systemの詳細情報はこちらから

ライフサイエンス情報誌「NEXT」

「NEXT」2017年10月号当記事はサーモフィッシャーサイエンティフィックが発刊するライフサイエンス情報誌「NEXT」2017年12月号からの抜粋です。
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