便中カルプロテクチン検査をご存知ですか? 便中カルプロテクチン検査は、腸の炎症を把握することが可能な検査です

便中カルプロテクチン検査に関する動画

便中カルプロテクチン検査の対象疾患について


炎症性腸疾患(IBD:INFLAMMATORY BOWEL DISEASE)とは

狭義では潰瘍性大腸炎(UC:Ulcerative colitis、以下UCと称する)とクローン病(CD:Crohn’s Disease、以下CDと称する)の2疾患を指します。

これらの疾患は活動期と寛解期を繰り返す慢性的な消化器疾患で、活動期には腹痛、下痢、血便などの消化器症状や体重減少を示します1)

UC、CDともに国が定める指定難病であり、若年で発症することが多い疾患です2)

2015年の医療費助成制度の改定に伴い、UC軽症例は原則として助成の対象から外れることとなりましたが、患者数は令和3年度衛生行政報告例特定医療費(指定難病)受給者証所持者数ではUCが138,079人、CDが48,320人と報告されています3)。一方で、2015年の疫学調査における推計患者数はUCが約22万人、CDが約7万人と報告され4)、IBD全体では患者数が増加傾向にあることが推定されます。

特定疾患医療受給者証所持者数

出典元:難病情報センター ホームページ(2021年12月現在)

潰瘍性大腸炎(UC:Ulcerative Colitis):主として大腸粘膜を侵し、しばしばびらんや潰瘍を形成する原因不明のびまん性非特異性炎症性疾患です。

直腸から連続性に炎症が拡がり、全大腸炎型、左側大腸炎型、直腸炎型に分類されます。

まれに腸の右側のみ、あるいは非連続性に炎症が起こることがあります5)

クローン病(CD:Crohn’s Disease) :非連続性に分布する原因不明の肉芽腫性炎症性疾患です。炎症は口腔から肛門まで、消化管のどの部位にも起こり得ますが、特に小腸・大腸、肛門周囲に好発します。炎症が腸管壁の全層に及ぶため、腸管の狭窄や瘻孔などの腸管合併症を起こします。

CDは、縦走潰瘍、敷石像など特徴的な画像所見を呈し、小腸型、小腸大腸型、大腸型に病型分類されます。これらの所見を欠く場合や、これらの所見が稀な部位にのみ存在する場合は特殊型とされます5)


機能性消化管疾患とは

消化器症状が慢性あるいは再発性に経過する一方で、その症状が器質的疾患によるものではないと考えられる疾患です。

その中のひとつである機能性腸疾患は、小腸ないし大腸に起因するものを指し、過敏性腸症候群、機能性腹部膨満、機能性便秘、機能性下痢、特定不能機能性腸疾患を含みます6)

 

過敏性腸症候群(IBS: Irritable Bowel Syndrome):代表的な機能性消化管疾患であり、腹痛あるいは腹部不快感とそれに関連する便通異常が慢性もしくは再発性に持続する疾患です。IBDと症状が似ていますが、IBSは腸管に器質的な炎症がありません6)

IBSの有病率は人口の約10-20%と言われており、潜在的な患者さんが多いとされる疾患です7)

カルプロテクチンについて

カルプロテクチンとは

カルプロテクチンは好中球に多く含まれる抗菌作用を持つS100蛋白に属するカルシウム・亜鉛結合蛋白質であり、好中球の細胞質成分の約60%を占めます8)


便中カルプロテクチン:FECAL CALPROTECTIN

腸管に炎症が起こると腸管壁のバリア機能が失われ、好中球が腸管壁を通じて管腔内に移行することで、便中のカルプロテクチン値が上昇します。

そのため、糞便中のカルプロテクチンの量を測定することで、腸管の炎症を把握することが可能となります9)


 便中カルプロテクチン検査の特性

① 非侵襲的襲的な検査であること

便中カルプロテクチン検査は便を採取するだけで測定が可能です。
検査を行うにあたって患者さんの身体的な負担は生じません。
そのため、小児・高齢の患者さんにも簡単に検査を受けて頂くことが可能となります。

② 便中カルプロテクチンの安定性

糞便中のカルプロテクチンは室温(15~25 ℃)で3日間は安定とされています10)

室温でもある程度の安定性を保つことから、患者さんは必ずしも来院当日の便を提出する必要はなく、前日の便でも検査が可能となります。検査を受ける患者さんは排便のタイミングを気にすることなく、検体を提出することが可能となります。

※検体の提出方法の詳細については検査の依頼先(検査センター)によって多少異なるため、依頼先へご確認ください。
※採便後、医療機関へ提出するまでは玄関先等の冷暗所での保管をお願いします。

③ 腸の炎症状態を把握することが可能

便を用いる検査のため、腸管の炎症を症状の有無にかかわらず捉えることが可能です。腸管以外の臓器の影響を受けることは少なく、また、定量的な評価なので、経時的な比較が可能です。

※便潜血及び悪性腫瘍により測定結果に影響が出る可能性があります11)
※NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)の使用により消化性潰瘍が発現し、本検査値が上昇する可能性があります12)
※月経期間中および注腸・座薬使用直後は採便を控えてください。便以外の物が混入した場合、検査結果に影響が生じる可能性があります。

便中カルプロテクチン検査で分かること

FEIA法では「炎症性腸疾患の診断補助」と「炎症性腸疾患の病態把握の補助」を使用目的として健康保険が適用されています。(2023年9月時点)


 ① 炎症性腸疾患(IBD)の診断補助

IBD診断の遅れ

IBDの早期診断は患者さんのQOLに大きく影響すると言われています。海外では、IBD発症の初期にIBSと診断されてしまい、IBDの確定診断がされるまで長期間を要することが報告されています13)

IBDの診断が遅れる理由としてさまざまな要因が考えられますが、臨床症状や発症年齢層がIBSと似ていることや、患者さんご自身の疾患への気付きの遅れなどが指摘されています。腸管の炎症を反映する便中カルプロテクチン検査は、器質的疾患であるIBDと機能性疾患であるIBSを鑑別することによりIBDの早期診断に貢献する可能性があると言われています。

測定の対象者

腹痛、下痢などの症状が3か月以上続くことからIBDが疑われ、さらに問診や諸検査で腸管感染症が否定された患者さんが便中カルプロテクチン検査の対象となります。

炎症性腸疾患(IBD)の診断補助における検査フロー例 

※1  エリア カルプロテクチン2(FEIA法)における参考基準値
※2  最終的な確定診断は診断基準に基づく
※3  ただし、その後の経過・検査などで炎症性腸疾患が疑われる場合には内視鏡検査を含む精査を行う

検査結果の解釈について

FEIA法の参考基準値である50 mg/kgを超える場合、IBDなどの器質的疾患が生じている可能性が考えられます。

参考基準値50 mg/kg以下の場合は腸管炎症がないIBSなどの機能性疾患の可能性が考えられます。

監修医の自験例

炎症性腸疾患の診断補助に便中カルプロテクチン検査を活用した例

16歳、男性。半年前から特に朝に頻回の便意と腹痛を自覚するようになった。便は泥状で4~5行/日であるが、血便や発熱は認めない。炎症性腸疾患と過敏性腸症候群の鑑別に便中カルプロテクチン検査を測定したところ32 mg/kgであった。大腸内視鏡検査は不要と判断し過敏性腸症候群と診断、ラモセトロン塩酸塩を投与したところ症状は軽減した。


 ② 潰瘍性大腸炎(UC)の病態把握の補助

UC患者さんの腸管炎症状態の把握のために便中カルプロテクチンを測定する場合、原則として3ヵ月に1回を限度として健康保険が適用となります。ただし、医学的な必要性から、本検査を1ヵ月に1回行う場合には、その詳細な理由及び検査結果を診療録及び診療報酬明細書の摘要欄に記載する必要があります4)

便中カルプロテクチン値はUCの内視鏡的活動度と相関しますので15)、活動性の評価に有用ですが、臨床的寛解期でも有用なツールとなります。

UCの寛解期では、症状が落ち着いていても炎症が残存していることがまれではありません。このように炎症が残存すると、のちに再燃するリスクが高くなることが明らかになっています。便中カルプロテクチンを測定することにより、将来の再燃のリスクを知ることが可能になり、患者さんへの指導・管理に役立ちます。

また、寛解期に定期的に便中カルプロテクチンを測定してモニタリングを行った研究報告によると、便中カルプロテクチン値は臨床的再燃に先立ち約8週間前から上昇していました16)。このように便中カルプロテクチンは再燃時の早期の粘膜の炎症を捉えることができるため、大腸内視鏡検査の施行タイミングや次回来院タイミングの決定に貢献します。

 

検査結果の解釈について

FEIA法による便中カルプロテクチン検査は、300 mg/kg以下をUCにおける内視鏡的非活動状態の指標としています。便中カルプロテクチン値が300 mg/kgを超える場合、内視鏡的活動状態にある可能性が考えられます。

潰瘍性大腸炎(UC)の病態把握における検査フロー例

※1 発癌の有無の確認や明らかな血便がある患者さんなどでは、内視鏡の適応を慎重に判断する必要があります
※2 エリア カルプロテクチン2(FEIA法)における指標

監修医の自験例

1) 寛解期UCの腸管炎症度評価・治療反応性の評価に便中カルプロテクチン検査を活用した例

21歳、女性。ステロイド依存性UCの患者さんで、抗TNF-α 抗体の導入で臨床的寛解となり維持投与を受けていた。しかしながら便中カルプロテクチン値は1120 mg/kgであり再燃が危惧されていた。再燃のリスクが高いことから、規則的な生活を送ることや飲酒を控えるなどの指導を行うも、環境への変化(転居)により再燃。内視鏡検査にて活動性を確認したため他の薬剤にスイッチして再び寛解となる。

2) 便中カルプロテクチン検査結果が治療方針の決定に貢献した例

29歳、男性。全大腸炎型、中等症のUCと診断され、5-アミノサリチル酸製剤に加えて副腎皮質ステロイドが経口投与された。血便は速やかに消失したが、排便回数は3~4行/日で改善は不十分であった。治療強化が検討されたが、便中カルプロテクチン値は138 mg/kgと高値ではなかった。多忙で睡眠時間も不十分な生活とのこと、薬剤は追加せず職場環境の改善により症状はその後改善を認めた。

3) 内視鏡検査が困難な患者さんに便中カルプロテクチン検査を活用した例

49歳、女性。標準的治療で臨床的な寛解導入が得られたため内視鏡検査での評価を提案したが、前回の検査時の疼痛により検査に同意しなかった。そこで代替案として便中カルプロテクチン値を測定したところ119 mg/kgであり、内視鏡的にも炎症の改善が期待できたため内視鏡検査を見合わせて経過観察中である。


 ③ クローン病(CD)の病態把握の補助

CD患者さんの腸管炎症状態の把握のために便中カルプロテクチンを測定する場合、原則として3ヵ月に1回を限度として保険が適用となります。ただし、医学的な必要性から、本検査を1ヵ月に1回行う場合には、その詳細な理由及び検査結果を診療録及び診療報酬明細書の摘要欄に記載する必要があります14)

CD の治療目標は「粘膜治癒の達成と維持」であり、UCと同様に治療効果の判定や再燃、粘膜治癒の確認のために定期的な活動性の評価を要します。しかしながら、CDでは大腸のみならず小腸にも病変が発生することがあり、さらに狭窄等により内視鏡の挿入が困難な場合があるため、内視鏡検査での評価が困難な症例もあります。そのような場合において便中カルプロテクチンが有用なツールとなります。

便中カルプロテクチン値はCDの内視鏡的活動度と相関し15, 17)、臨床的寛解期でも便中カルプロテクチン値が高値の場合は再燃の可能性が示唆されるという報告があることから18)、便中カルプロテクチン検査を用いてCD患者さんの腸管の炎症状態を非侵襲的に把握することで、内視鏡検査の施行タイミングや治療反応性の評価、次回来院タイミングの決定の参考とすることが可能となります。

 

検査結果の解釈について

FEIA法による便中カルプロテクチン検査は、80 mg/kg以下をCDにおける内視鏡的非活動状態の指標としています。便中カルプロテクチン値が80 mg/kgを超える場合、内視鏡的活動状態にある可能性が考えられます。

その場合、各症例の状況に応じて内視鏡検査やCT、MRI等による活動性の確認などを検討します。

クローン病(CD)の病態把握における検査フロー例

※1 発癌の有無の確認や明らかな血便がある患者さんなどでは、内視鏡の適応を慎重に判断する必要があります
※2 エリア カルプロテクチン2(FEIA法)における指標

医師からのコメント

炎症性腸疾患では患者さんの自覚症状は必ずしも粘膜の炎症を反映していません。このため、病態の評価には客観的な指標を用いることが大切です。炎症の客観的評価のゴールドスタンダードは内視鏡検査ですが、施設や患者さんの受容性など様々な理由で実施が困難なことがあります。便中カルプロテクチン検査は、患者さんに採便という負担が生じるものの非侵襲的検査であり繰り返し行える検査です。位置づけは内視鏡検査の補助ではありますが、定量的な客観的評価が可能なことから、機能性疾患との鑑別や炎症性腸疾患のモニタリングツールとして活用が期待されます。

竹内胃腸内科医院 
院長 
竹内 義明 先生

1988年 昭和大学医学部卒業

1992年 昭和大学大学院修了
          山梨県富士吉田市立病院

1993年 米国ミシガン大学留学

1997年 昭和大学第二内科(現消化器内科)助手

2006年 昭和大学第二内科講師

2013年 昭和大学消化器内科准教授

2019年 竹内胃腸内科医院 開院

2023年9月時点

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参考文献

1)炎症性腸疾患(IBD)診療ガイドライン 2020 (改訂第2版). 日本消化器病学会, 南江堂, 東京(2020)

2) 潰瘍性大腸炎の皆さんへ 知っておきたい治療に必要な基礎知識 (最終閲覧日:2020年08月26日) http://www.ibdjapan.org/patient/pdf/01.pdf

3) クローン病の皆さんへ 知っておきたい治療に必要な基礎知識 (最終閲覧日:2020年08月26日) http://www.ibdjapan.org/patient/pdf/02.pdf

4) 令和元年度 潰瘍性大腸炎・クローン病 診断基準・治療指針, 難治性炎症性腸管障害に関する調査研究(鈴木班)令和元年度紊乱研究報告書(2020)

5) Maaser C et al: ECCO-ESGAR Guideline for Diagnostic Assessment in IBD Part 1: Initial diagnosis, monitoring of known IBD, detection of complications. J Crohns Colitis, 13: 144-164, 2019.

6) 西脇祐司 他: 潰瘍性大腸炎およびクローン病の有病者数推計に関する全国疫学調査. 難治性疾患の継続的な疫学データの収集・解析に関する研究(H26-難治等(難)-一般-089)総合研究報告書(2017).

7) 機能性消化管疾患診療ガイドライン2014. 日本消化器病学会, 南江堂, 東京(2014).

8) Kubo M et al: Differences between risk factors among irritable bowel syndrome subtypes in Japanese adults. Neurogastroenterol Motil, 23: 249-254, 2011.

9) Vermeire S, Van Assche G, Rutgeerts P: Laboratory markers in IBD: useful, magic, or unnecessary toys?.Gut, 55: 426-431, 2006..

10) D Foell et al: Monitoring Disease Activity by Stool Analyses: From Occult Blood to Molecular Markers of Intestinal Inflammation and Damage. Gut, 58(6): 859-68, 2009 

11) D'Haens G et al: Fecal calprotectin is a surrogate marker for endoscopic lesions in inflammatory bowel disease. Inflamm Bowel Dis, 18: 2218-2224, 2012.

12) サーモフィッシャーダイアグノスティックス社 小冊子より

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