腹痛、下痢、便に血が混じる(血便)、などのおなかの不調が長く続き、さらには体重も減ってきた…ということはありませんか?
不調の原因の多くはウイルスや細菌感染などによる一時的な感染症ですが、症状が長く続く場合や繰り返す場合は、腸に炎症が起こっている可能性が考えられます。
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気になる方は医師に相談しましょう
一般的には、潰瘍性大腸炎(Ulcerative Colitis:UC)とクローン病(Crohn’s Disease:CD)の2つの病気を指します。これらは主に腹痛、下痢、便に血が混じる(血便)などのおなかの症状を示す原因不明の病気で、厚生労働省から「指定難病」に定められています1,2)。IBDは、大腸や小腸などの消化管に炎症が起こることで主におなかの症状を示しますが、発熱や貧血などの全身症状も同時に現れる場合があり1,3,4)、炎症がある時期(活動期)と炎症が落ち着いている時期(寛解期)を繰り返します5,6)。
UCは30代~40代で発症することが多く、放置すると8~10年後における大腸がんの発症リスクが高まることが分かっています3,7,8)。CDは10代~20代と若い年齢で発症することが多く、UC、CDともに近年患者さんの数が増えています1)。2015年度の調査結果から、日本にはUCの患者さんが約22万人、CDの患者さんが約7万人いると推定されています9)。IBDと診断するためには内視鏡検査が必要となります。
便秘や下痢などのお通じの異常(回数や形)を伴い、腹痛やおなかの不快感が続く病気です10)。日本の全人口の10~20%はIBSの可能性があると言われています11)。IBDと症状が似ていますが、IBSでは検査をしても腸の炎症やがんなどはみられません。IBSの症状にはストレスが関係し、ストレスを感じると症状が悪化します10)。
腸に炎症があるかどうかを調べるためには通常は内視鏡検査を行いますが、内視鏡検査は身体的にも大きな負担を伴うため、抵抗を示す患者さんも少なくありません。また、腹痛や下痢などのありふれた症状はIBDに限らないため、これらの症状のある全ての患者さんに内視鏡検査を実施するのも現実的ではありません。そこで、内視鏡検査をすべき患者さんを絞るために、便検査で腸の炎症があるかどうかを調べる「便中カルプロテクチン検査」という検査が役立ちます。
カルプロテクチンは、白血球の一つである好中球の中にたくさん含まれるタンパク質です12)。腸に炎症が起こると炎症部分に好中球が集まるため、便の中のカルプロテクチンの量を測定することで腸に炎症があるかどうかを確認することができます12,13)。また、便中カルプロテクチンの値は、腸の炎症の度合いが強いほど数値が高く出ることがわかっています14)。
1. 簡便な検査です
便中カルプロテクチン検査は、便を採取して医療機関に持っていくだけで検査をすることができます。検査を受けるための事前の食事制限や下剤の服用などの特別な準備は必要ありません。検査を受ける際の詳しい手順につきましては医療機関の指示に従ってください。
2. 身体的な負担がありません
便を用いる検査のため、身体への負担が少ない検査です。そのため、お子様や高齢の方、妊娠中の方にも安心して検査いただけます。
3. 腸の炎症状態を客観的に(数値で)把握することができます
血液で炎症を調べる検査としてCRPや赤沈などがあり、これらの検査では体の中で炎症が起きているかどうかを確認するものですが、体の中のどこで炎症が起きているかはわかりません。一方で便中カルプロテクチン検査は、腸の中で起きている炎症を捉えることができます。また、検査結果は数値で報告されるため、腸の炎症の程度を知ることができるほか、以前の検査結果の数値との比較でご自身の病気の経過を知ることもできます。
おなかの不調が腸の炎症(IBDなど)によるものなのか、あるいは炎症以外(IBSなど)なのかを判断するための情報となります。便中カルプロテクチン検査の結果が陽性の場合は、腸に炎症が起きている可能性が高くなるため、その後必要に応じて詳細な検査を行います。
お薬の服用などの治療により腹痛や下痢などの症状がなくなった・落ち着いた方でも、実は腸に炎症が起こっていることがあります。このように症状を伴わない腸の炎症を便中カルプロテクチン検査は捉えることができます。便中カルプロテクチン検査を行うことで、症状が悪化する前に医師と今後の治療方針について相談することも可能です。
腸の状態を正確に評価するためには内視鏡検査が必要ですが、検査前の準備や、検査にかかる時間の確保の難しさ、身体的負担を伴うなどの理由で容易に受けられないと思います。便中カルプロテクチン検査は、内視鏡検査の代替手段ではありませんが、内視鏡検査の補助検査として大変有用な検査です。ご負担は便を提出していただくだけであり、簡単な採便容器もあります。おなかの調子が良くない患者さんや潰瘍性大腸炎、クローン病と診断された患者さんはぜひ担当医にご相談ください。
竹内胃腸内科医院
院長
竹内 義明 先生
1988年 昭和大学医学部卒業
1992年 昭和大学大学院修了
山梨県富士吉田市立病院
1993年 米国ミシガン大学留学
1997年 昭和大学第二内科(現消化器内科)助手
2006年 昭和大学第二内科講師
2013年 昭和大学消化器内科准教授
2019年 竹内胃腸内科医院 開院
2023年9月時点
詳細については小冊子をご参照ください
1)炎症性腸疾患(IBD)診療ガイドライン 2020 (改訂第2版). 日本消化器病学会, 南江堂, 東京(2020)
2) 潰瘍性大腸炎の皆さんへ 知っておきたい治療に必要な基礎知識 (最終閲覧日:2020年08月26日) http://www.ibdjapan.org/patient/pdf/01.pdf
3) クローン病の皆さんへ 知っておきたい治療に必要な基礎知識 (最終閲覧日:2020年08月26日) http://www.ibdjapan.org/patient/pdf/02.pdf
4) 令和元年度 潰瘍性大腸炎・クローン病 診断基準・治療指針, 難治性炎症性腸管障害に関する調査研究(鈴木班)令和元年度紊乱研究報告書(2020)
5) Maaser C et al: ECCO-ESGAR Guideline for Diagnostic Assessment in IBD Part 1: Initial diagnosis, monitoring of known IBD, detection of complications. J Crohns Colitis, 13: 144-164, 2019.
6) 西脇祐司 他: 潰瘍性大腸炎およびクローン病の有病者数推計に関する全国疫学調査. 難治性疾患の継続的な疫学データの収集・解析に関する研究(H26-難治等(難)-一般-089)総合研究報告書(2017).
7) 機能性消化管疾患診療ガイドライン2014. 日本消化器病学会, 南江堂, 東京(2014).
8) Kubo M et al: Differences between risk factors among irritable bowel syndrome subtypes in Japanese adults. Neurogastroenterol Motil, 23: 249-254, 2011.
9) Vermeire S, Van Assche G, Rutgeerts P: Laboratory markers in IBD: useful, magic, or unnecessary toys?.Gut, 55: 426-431, 2006..
10) D Foell et al: Monitoring Disease Activity by Stool Analyses: From Occult Blood to Molecular Markers of Intestinal Inflammation and Damage. Gut, 58(6): 859-68, 2009
11) D'Haens G et al: Fecal calprotectin is a surrogate marker for endoscopic lesions in inflammatory bowel disease. Inflamm Bowel Dis, 18: 2218-2224, 2012.
12) サーモフィッシャーダイアグノスティックス社 小冊子より
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サーモフィッシャーダイアグノスティックス株式会社