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アレルギーメールニュース 2022 年 3月号
サーモフィッシャーダイアグノスティックス株式会社 発行
1. はじめに
アスペルギルスは普遍的な環境アレルゲン/抗原でアレルギー性肺疾患および肺真菌症の原因になります 1,2)。喘息では、アレルギー性気管支肺アスペルギルス症(ABPA)や真菌感作重症喘息(SAFS)1,3)、肺真菌症では、侵襲性肺アスペルギルス症(IPA)、慢性肺アスペルギルス症(CPA)や単純性肺アスペルギローマ(SPA)の原因となります 2)。さらに、アスペルギルスは、陳旧性肺結核、肺非結核性抗酸菌症、間質性肺炎など多くの肺疾患の予後に影響することが知られています 2)。
近年、アスペルギルスの気道への定着および感作と病因、疾患の進行との関連が、喘息のみならず慢性閉塞性肺疾患(COPD)でも検討され、明らかになりつつあります 4,5)。
COPD は、世界の死亡原因として、虚血性心疾患および脳卒中に次いで 3 番目で、その有病率は高齢化に伴い増加しています 6)。本邦の大規模調査によると、有病率は40歳以上の8.6%と推定されていますが、実際に受診している患者はその 5%に過ぎず、認知度の低い疾患に挙げられています 7)。このため世界では COPD が健康上、また医療経済上多大な影響を及ぼしていることから、COPD の認知度向上、診断・管理・予防方法の向上および COPD の研究促進を目的として共同プロジェクトが発足されました 8)。
2. COPD とアレルギー
COPDは肺の慢性の炎症で喀痰中に炎症細胞数が増加し、多くの患者は好中球およびマクロファージが優勢です。好中球性炎症は、ウイルス、細菌などの感染による急性増悪を起しやすくし、また酸化ストレスによりステロイドの反応性を減弱すると考えられています。一部の COPD では、喘息と同様に末梢血または喀痰中に好酸球が増加することが知られ、このような例では急性増悪の頻度が高く、急性増悪の予防には吸入ステロイド(ICS)が、急性増悪時には全身性のステロイドが有効といわれています 9)。しかし、COPD のエンドタイプとして好酸球性炎症が優勢のサブグループに関心が持たれ、抗 IL-5 抗体薬の効果が検討されましたが、十分な急性増悪予防効果は得られなかったと報告されています 10)。喘息と COPD のオーバーラップ(ACO)を除き、COPD における好酸球の増多の機序は不明であり、この機序の解明および治療法の確立に関する研究結果が期待されています 9)。
ACOもCOPDおよび喘息患者の増加に伴って増加しており、喘息を合併していないCOPDに比較して、急性増悪の重症度および頻度が高い傾向にあると言われています11)。呼気中一酸化窒素濃度、喀痰・末梢血好酸球数、総IgE値、特異的IgE抗体価などの2型炎症バイオマーカーがACOの診断に有用であることが示され12-14)、さらに吸入ステロイド治療によりACOのコントロールが良好となることも報告されています15)。
喘息以外にも、上気道アレルギー合併、総IgE高値または特異的IgE陽性のCOPDは、呼吸機能の低下、呼吸器症状の頻度、急性増悪による救急受診の頻度が高く、このような例にはICSが有効であることが示され、COPDの診断または経過観察時には、アレルギー症状およびアレルギー素因も評価することが必要と報告されています16-19)。
COPDにおいても少なからず感作アレルゲンが認められますが19,20)、チリダニ、ゴキブリ、花粉などに比較して環境真菌に強く感作されているCOPDでは、呼吸器症状発現および急性増悪の頻度が高く、また呼吸機能が低下していることが示され、患者宅の屋内外の空中真菌量増加とCOPDの呼吸器症状発現頻度および呼吸機能の低下と相関が認められています19)。
表1.COPDにおけるアレルギー症状、アレルゲン感作の関与
3. COPDとアスペルギルス
COPDの増悪には、細菌およびウイルス感染が主に関与しますが21,22)、最近一部のCOPDにおいて、真菌、特にアスペルギルスも関与していることが認識されつつあります4,5)。急性増悪時のみならず安定期のCOPDにおいても、喀痰からアスペルギルスが分離されること23)、また、アスペルギルス細胞壁の主要成分であるガラクトマンナン(GM)が高頻度に血液中から検出されることが示され24)、COPD患者において気道にアスペルギルスが定着していると考えられています。気道の細菌類、真菌類は、肺胞マクロファージの食作用によって排除されますが、喫煙者およびCOPD患者のマクロファージは、アスペルギルスに対する食作用能および炎症性サイトカインの反応性の低下が認められると報告され、このため、気道に入ったアスペルギルス胞子を排除できず発芽、増殖および感染が成立すると考えられています25-27)。
また、気道において種々の刺激により好中球は細胞外トラップ(NET)関連の炎症を惹起します28,29)。実際に喀痰中のNET複合体量はCOPDの重症度および急性増悪の頻度と相関することが示され、またNET形成は気道における真菌の定着を抑制的に働く細菌叢の多様性の破綻にも関連することが報告されています30-32)。このため気道においてアスペルギルスが定着し易くなるとも考えられています。さらに、NETまたは患者の2本鎖DNAが2型炎症を増強することも報告されています33)。
非アレルギー性の喘息において経過中にアスペルギルスに感作されることが示され、この感作の危険因子のひとつが高用量のICS使用であったと報告され34)、ICSまたは全身性ステロイド使用も気道におけるアスペルギルス定着および感作に関連していると考えられています34,35)。
1) アスペルギルス定着/感染
集中治療室で加療中の患者において、気道からアスペルギルスが分離されることに関連する危険因子のひとつにCOPDが挙げられています36)。急性増悪で受診したCOPD(AECOPD)において、気道からのアスペルギルス分離に関連する危険因子は、直近1年間の急性増悪歴、同時に緑膿菌の分離、ICS高用量の使用などが挙げられ、気道からアスペルギルスが分離されたAECOPDでは軽快までの日数が長いことが報告されています37,38)。安定期のCOPDの37%に喀痰からアスペルギルスが分離され、分離されなかった例に比較して呼吸機能が低く、喀痰中好中球数が高く、ICS高用量吸入例に多かったと報告されています23)。また、安定期のCOPDの40.3%に血中GM陽性が認められ、血中GM高値は、高年齢およびCT画像による気管支拡張と膿疱の存在との関連が認められました。さらに、血中GM高値群(≧0.7)は、重症な急性増悪発現の頻度および呼吸器関連の原因による死亡率がGM低値群に比較して有意に高いと報告されています24)。
2) アスペルギルス感作(表2)
5報の論文(欧州:2、アジア:2、中米:1)、合計1028例のCOPD(平均68.8歳)を対象としてアスペルギルス感作率を検討した結果、加重平均は13.6%で、322例の健常者における感作率は4%でした4)。アスペルギルス感作COPD(Af+COPD)では、非感作COPD(Af-COPD)に比較して有意に呼吸器症状発現頻度が高く、呼吸機能が低いことが示されています18,23)。別の報告では、Af+COPDはAf-COPDに比較して男性、抗アスペルギルスIgG抗体価、気管支拡張 Modified Reiff スコアおよび喀痰中病原微生物の分離率が有意に高いと報告され、また、COPDにおける気管支拡張症の合併に関連する因子は、年齢およびアスペルギルスアレルゲンコンポーネントであるAsp f 1またはAsp f 3の感作でした39,40)。COPD-気管支拡張症オーバーラップ症候群(BCO)については、英国のBRONCH-UKから診断基準および診断の重要性についての見解が示されています41)。アスペルギルス感作喘息においても気管支拡張症合併率が68%と非感作喘息の35%に比較して有意に高いことが報告されています42)。
COPDにおけるABPAの合併は、1 – 4%と喘息と比較してもそれほど低くない頻度で、とくにBCOでは34%と高い合併率のためABPAを念頭に経過観察すべきと報告されています18,43,44)。
表2.COPDにおけるアスペルギルス感作
Af: Aspergillus fumigatus IgE +:特異的IgE陽性 IgE -:特異的IgE陰性 BE:気管支拡張症 ABPA:アレルギー性気管支肺アスペルギルス症 BCO:気管支拡張症-COPDオーバーラップ 喀痰真菌(-):喀痰培養真菌分離なし 喀痰Af(+):喀痰培養Af分離 喀痰Af以外(+):喀痰培養Af以外の真菌分離OCS:経口ステロイド NA:記述なし
3) COPDと肺アスペルギルス症
IPAは、血液疾患などの好中球減少症、免疫抑制剤・ステロイド大量投与患者、臓器移植、肝不全、COPDに発症することが知られています2)。世界で年間57,991,563人がCOPDで受診していると推定され、そのうち753,073(1.3%)-2,272,322(3.9%)人がIPAを発症し540,451-977,082人が死亡していると推定されています4)。また、CPAは、陳旧性肺結核症、非結核性抗酸菌症、COPD、間質性肺炎など肺の基礎疾患を持つ患者に発症します2,45)。
4. さいごに
アスペルギルスの定着、感染または感作とCOPDの病態との関連に関するエビデンスが集まりつつあり、今後は多施設共同、長期観察かつ前方視的な研究によって宿主と病原体相互作用のエビデンスのさらなる集積により、COPDにおける新たなエンドタイプが見いだされ、アスペルギルスを標的とした治療法の開発が期待されています5,9)。
監修) 福冨 友馬 先生
国立病院機構相模原病院