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アレルギーメールニュース 2022 年 9 月号
サーモフィッシャーダイアグノスティックス株式会社 発行
1. はじめに
世界的に木の実類(Tree Nuts 以下 TN)は、ピーナッツ(Peanut 以下 PN)とともに頻度の高い食物アレルギーの原因のひとつとして認識され、TN アレルギーは増加傾向にあると報告されています1-7)。TN アレルギーは未就学児から思春期に多く、その誘発症状は重篤で食物アナフィラキシーの 18 – 40%は TN が原因と言われています2)。また、TN および PN アレルギー患者においては、多種の TN、PN およびゴマへの IgE 抗体が同時に陽性であることが多いですが、必ずしも IgE 抗体が陽性のすべての食物に対して摂取による臨床症状を認めるわけではありません。症状が誘発されるか否かは経口誘発試験による確認が必要となります8)。ただ実際には、IgE抗体が陽性ということのみを根拠に除去されている患者が多く認められ問題となっています9)。PN、クルミ、カシューナッツなどのアレルギー診断には日常検査でアレルゲンコンポーネントが使用され、経口負荷試験実施数が減少すると報告されています10)。
2. TN アレルギーの疫学
McWilliam らは、メタアナリシスにより TN アレルギーの一般での有病率を推定しています。自己申告による有病率は、18 歳未満で 0‐3.8%、成人で 0.18‐8.9%、一方、誘発歴と感作による診断では、18 歳未満で 0.05‐4.9%、成人で 0.35‐0.5%と報告されています。口腔アレルギー症状を含めると頻度は 8‐11.4%と高くなり、その多くがシラカンバ花粉飛散地域の欧州での結果でした 11)。
米国において、1997、2002および2008年に大規模なPNおよびTNアレルギーの調査が実施されました。本調査では自己申告による有病率を推定しています。成人の PN または TN アレルギーの有病率は、それぞれ 1.3%と 3 回の調査に変化はありませんが、18 歳未満において、PN アレルギー(0.6% → 1.4%)および TN アレルギー(0.2% → 1.1%)の有病率は有意に増加していました 12)。
本邦からは 2020 年に実施された「即時型食物アレルギーによる健康被害に関する全国実態調査」によると、TN(13.5%)が即時型食物アレルギーの原因として小麦を抜いて、鶏卵(33.4%)、牛乳(18.6%)に次いで 3 番目に頻度が高く、以前と比較すると著明に増加しています 13)(2014 年調査では 3.3%で第 8 位 14)、 2017 年調査では 8.2%で第 4 位 15))。原因 TN の内訳は、クルミ(56.5%)、カシューナッツ(21.2%)、マカダミアナッツ(5.5%)、アーモンド(4.2%)、ピスタチオ(2.7%)の順で、クルミ(463 例)は単独でも PN の 370 例を超える結果でした。
3. TN アレルギーの誘発症状
Sicherer らは、PN アレルギーの 33%に TN アレルギーを認め、その 63%が 1 種、22%が 2 種、15%が 3 種以上の TN が原因であり、初発の症状誘発は PN で中央値 24 ヶ月齢、TN で 62 ヶ月齢、72%が初めての摂取であったと報告しました。初発の誘発症状は、31%が 2 臓器、21%が 3 臓器で症状を認め、20%にアドレナリンが投与されました。初発は自宅での発症が多く、診断後の誤食による症状誘発(55%の例)は、学校、自宅、レストランなどで、その重篤度は初発と同等でした 8)。
国内外でアナフィラキシーにより救急受診した小児の調査が実施され、食物を原因とするアナフィラキシーの頻度が高く、特に PN および TN が原因として頻度が高く、増加していることが報告されています 16-18)。
欧州からは 18 歳未満の 1,970 例のうち食物によるアナフィラキシーは 66%と最も高く、2 歳までは鶏卵および牛乳、就学前ではヘーゼルナッツおよびカシューナッツ、すべての年齢で PN によるアナフィラキシーの頻度が高かったと報告されました 16)。
米国からは、10 年間(2005-2014 年)で 18 歳未満の食物アナフィラキシーで救急外来受診または入院した 7,310 例が検討され、食物アナフィラキシーによる受診者が 214%増加し、最も多かったのが 0-2歳で、最も増加率が高かったのは 13-17 歳でした(413%)。原因は PN が最も多く、次いで TN で、TN によるアナフィラキシーは最も高い増加率を示しました(373%)17)。
最近、本邦でも 4 年間に二次および三次病院を受診した 15 歳未満のアナフィラキシー患者 3,425 例が検討され、72.4%が食物によるもので、鶏卵(20.2%)、牛乳(18.3%)に次いで TN を原因とする患者は 13.2% と多かったと報告されています。直近の 1 年間(2020 年)では TN アナフィラキシーの頻度が最も高く(100 例)、鶏卵(94 例)、牛乳(90 例)、小麦(40 例)および PN(27 例)を上まわり、4 年間で TN アナフィラキシーが著明に増加していました(40→100 例/年)。年齢別の原因食物は、0 歳で鶏卵(50.0%)、1-2 歳および 3-6 歳ではいずれも TN が最も多く(それぞれ 25.2%、24.1%)、7-14 歳では牛乳(18.4%)に次いで TN (16.2%)の頻度が高い結果でした。TN のうち、4 年間を通じて最も原因として多かったものは、クルミ、カシューナッツ、マカダミアナッツ、ピスタチオ、アーモンドの順でした。また、TN による患児は、TN 以外の食物による患児に比較して入院率が有意に高かった(P=0.016)と述べられています 18)。
TN アレルギー患者において、TN に対するアナフィラキシーに関連するリスク因子が検討され、鶏卵アレルギーおよび喘息の合併、血清トリプターゼ基礎値の高値であったと報告されています。血清トリプターゼ基礎値のアナフィラキシー発症予測のカットオフ値は 2.06 ng/mL で、その感度および特異度は、それぞれ、85.9%および 69.0%で(AUC:0.810)、95%アナフィラキシー発症予測値は 5.30 ng/mL でした 19)。
12 年間に英国の地域三次医療アレルギーセンターで PN または TN アレルギーで加療した 1,094 例(76% が小児:1 か月齢から 15 歳)の PN および TN 摂取後の誘発症状が検討されました。37%が皮膚または口唇の蕁麻疹または血管浮腫のみで、43%が咽頭浮腫、35%が呼吸困難、14%が意識消失でした。重篤な咽頭浮腫では重症鼻炎、致死的な呼吸困難では重症喘息、意識消失では重症湿疹が、それぞれの症状発現の危険因子と報告されました。重篤な咽頭浮腫は PN よりも TN で有意に多く、血清アンギオテンシン変換酵素濃度が 37.0 mmol/L 未満の患者で発症リスクが高いことから(オッズ比 9.6)、ブラジキニンが発症に関連していることが示唆されています 20)。
4. TN アレルギー発症の危険因子と予防
近年、PN アレルギー発症の危険因子は、乳児期の重症湿疹および鶏卵アレルギーとされ 21)、これらのハイリスク乳児において 1 歳未満の早期から PN の摂取を始めると 5 歳時における PN アレルギーの発症を抑えられることが報告されました(LEAP study)22)。
TN 感作および TN アレルギー発症のコホート研究が実施され(Health Nuts コホート)、1 歳時の TN 摂取率は 18.5%、TN アレルギーの頻度は 0.1%、また、鶏卵および PN アレルギーが TN 感作(頻度:23.6-48.4%)の危険因子となることが示されました。さらに、6 歳時において、経口負荷試験で確認された TN アレルギーの頻度は 3.3%で、1 歳時の鶏卵アレルギー単独例の 14%、PN アレルギー単独例の 27%および鶏卵と PN アレルギー合併例の 37%に TN アレルギーが認められ、TN アレルギーにおいても、これらのハイリスク児の発症をいかに抑えるかの研究が今後必要と指摘されています 23)。
2008 年に Lack が二重抗原曝露仮説を提唱し 24)、その後、乳児期の湿疹が食物アレルゲン感作および食物アレルギー発症の危険因子であることが示されました 25-28)。また、家庭での PN、鶏卵などの消費量と家庭内(両親のベッド、児のベビーベッドなどの埃)のこれら抗原量が相関し、埃中の抗原にはアレルゲン活性が認められると報告され 29,30,)、最近、アーモンドおよび PN 未摂取の乳幼児におけるこれら食品の感作は、家庭内の消費量と強く関連し、感作率はアトピー性皮膚炎児および鶏卵感作児で高かったと報告されました31)。
本邦において、TN の輸入量の増加に伴い家庭で消費される機会が増加したため家庭内環境中の TN 抗原量が増加することで、経皮感作を生じやすい環境となっていることが、TN アレルギーの増加の原因と考えられています 13,18)。湿疹または鶏卵アレルギーのハイリスク児に、PN、鶏卵の乳児期早期からの摂取による食物アレルギー発症予防の有効性が報告されていますが 22,32)、TN の早期摂取によるアレルギー発症予防の報告はなく今後の検討が期待されています 33)。
また、スウェーデンの出生コホート研究では、24 歳時の 2,215 例における TN 感作率は 21.2%で、その 37%に TN 摂取で誘発歴が認められ、成人においても TN アレルギー発症の危険因子は、1‐2 歳時の湿疹、4 歳時の喘息および鶏卵アレルギーと報告されています 34)。
5. さいごに
TN アレルギーにおける発症予防手段は確立しておらず、その初発は未就学児に多く、さらに初めての摂取で重篤な誘発症状を呈することから、重症な湿疹や鶏卵アレルギーなどのハイリスク乳児において、初発で予期せぬ重篤な誘発症状の発現を避けるために TN およびそのコンポーネントによる特異的 IgE 検査を考慮することが指摘されています 18,35)。
監修) 福冨 友馬 先生
国立病院機構相模原病院