アレルギーメールニュース 2022 年 11 月号

特異的 IgE 抗体検査の選択

 

サーモフィッシャーダイアグノスティックス株式会社 発行


1.  はじめに

アレルギーの診断では、詳細な問診により原因アレルゲンを推定し、その原因物質により症状が誘発されるか、それが免疫学的機序を介する反応であるかを確認する必要があります。免疫学的機序の確認の方法としては、患者の皮膚に直接原因物質を接触させ反応をみる皮膚テストや患者の血液中の原因物質に特異的な IgE 抗体を検出する特異的 IgE 抗体検査などの免疫学的検査を用います。免疫学的検査は、感作アレルゲンの確定に有用であり、アレルギー診断に重要な情報をもたらします。原因アレルゲン確定後は、これを除去するよう患者を指導したり、適切な投薬を行うなど治療方針が決定されますが、必要に応じ一定期間毎にくり返し免疫学的検査を実施することで、治療効果を判定するための指標としても役立ちます。

2.  各種特異的 IgE 抗体検査の利点と欠点

特異的 IgE 抗体の存在を確認する方法として、皮膚テストや特異的 IgE 抗体検査キットが汎用されています。中でも、血中特異的 IgE 検査は、採血が必要にはなるもののそれ以外の患者の身体的負担が無く、簡便でありもっとも汎用されています 1)

特異的 IgE 抗体検査キットは、日本においても複数社から販売されており、それぞれに各社の工夫がなされています。これらキットによる測定では、患者から採血した検体を用います。汎用されているのは、アレルゲンをセルロース(スポンジ)、ビーズ、多孔性ガラスフィルターなどに固相化し、これに検体中の特異的IgE抗体を反応させ、酵素標識抗体などを添加後に得られる蛍光物質が発する蛍光強度を計測する FEIA (fluorescence-enzyme immunoassay) 法 や 化 学 発 光 の 強 さ を 計 測 す る CLEIA (chemiluminescence-enzyme immunoassay )法を応用したキットです。特異的 IgE抗体検査の結果を解釈するために感度や特異度だけでなく抗体価をもちいたプロバビリティーカーブが参考になります 1), 2) 。これは、抗体価と症状誘発確率の関係を二項ロジスティック解析に従って曲線で表したもので、得られた抗体価における当該アレルゲンに対する症状誘発の可能性を推定することに役立ちます。また、免疫療法においては、経過観察の過程で、特異的 IgE 抗体価(必要に応じ特異的 IgG 抗体価および特異的 IgG4 抗体価)のモニタリングにも、定量的な測定結果が使用されています。

上記キットと同じ測定原理で 40 項目程度のアレルゲンを一度に測定できるキットも販売されています。最近では、マイクロアレイにアレルゲンを固相化し、わずか数十μL の少量検体で多項目のアレルゲンを同時に測定できるキットも存在します。これらは、問診で推定できない原因アレルゲンの検索や、患者自身も気づかずに暴露され、感作しているアレルゲンの検索などに役立ちます。しかし、これらキットから得られる結果は定量性が十分ではないので、患者の経過観察などに用いることは推奨されていません 2)

金コロイド標識抗体を利用した POCT( Point of Care Testing )で、指先採血によりわずか数十分で結果を得ることができる検査もクリニックを中心に浸透しています。目視判定で陰性 / 疑陽性 / 陽性を判定する検査になります。原因アレルゲンを知りたいという患者ニーズの高まりを反映しているものと思われ、患者の初診時に検査結果を得ることができ、患者とともに結果を確認し、その日のうちに治療方針を決定できるのが最大の利点です。特異的 IgE 抗体検査に共通して言えることですが、たとえ特異的 IgE 抗体が陽性であっても、当該アレルゲンへの感作を示しているだけであって、それが必ずしも発症に関わる真のアレルゲンでない場合がありますので、結果の解釈は慎重にすべきです。特に食物アレルギーの場合、 “念のため”“心配だから”といって、必要以上に除去する食物を増やさないよう必要に応じて食物経口負荷試験で 症状誘発するか否かを確認します 2)

3.  特異的 IgE 抗体検査‐測定法による違いの一例

各種特異的 IgE 抗体検査キットの運用面だけでなく、分析学的性能面についても確認しておく必要があります。ここでは、汎用されている FEIA 法のイムノキャップ特異的 IgE™(以下 イムノキャップ、サーモフィッシャーダイアグノスティックス(株))と、マイクロアレイ法からは ISAC(サーモフィッシャーダイアグノスティックス(株)))を挙げ、両者の分析学的性能について比較検討された報告のひとつをご紹介します。(※なお、本検討において使用された ISAC は日本で体外診断用医薬品として承認されていません。)Johannes Martin Schmid ら 3)は、イネ科花粉による皮下免疫療法(SCIT)を実施した 24 症例について、SCIT 実施前後のイネ科花粉コンポーネント(Phl p 1 または Phl p 5)の特異的 IgE および IgG4 の抗体価を比較しています。

Phl p 1 または Phl p 5 において、SCIT 後の IgG4 測定値はイムノキャップおよび ISAC ともに上昇しましたが、IgE 測定値はイムノキャップでは上昇するものの ISAC では低下しました(FIG 1)。これは、SCIT 実施にともない検体中の当該アレルゲンコンポーネントに対する特異的 IgG4 が上昇し、特異的 IgE 抗体と競合した結果と考えられます。ISAC はわずか 20μL の検体量で 112 のアレルゲンコンポーネントに対する特異的 IgE 抗体の有無を確認できるメリットのあるキットですが、マイクロアレイの固相表面はイムノキャップのそれと比較し小さく、固相化できるアレルゲン量も限られています。したがって、SCIT などの免疫療法の実施で他クラスの抗体価が上昇しているような患者においては、特異的 IgE 抗体価が実際よりも低値に測定される可能性があります。

4.  おわりに

現在では、測定原理、必要検体量、反応時間などが異なる多種多様の特異的 IgE 抗体検査キットが流通しており、その検査の目的に応じてキットを選択することが可能です。日常の検査においては、運用面での利点を比較し選択することも重要ですが、利点を優先した結果、分析学的性能面に限界が生じる可能性があることも理解しておく必要があります。そのうえで、検査の目的にあったキットを使用することで、アレルギ ー診断および治療の質の向上に貢献できるものと考えます。

Measurements of levels of IgE and IgG4
参考文献
  1. アレルギー総合ガイドライン 2022
  2. 食物アレルギー診療ガイドライン 2021
  3. Johannes Martin Schmid, et al. Pretreatment IgE sensitization patterns determine the molecular profile of the IgG4 response during updosing of subcutaneous immunotherapy with timothy grass pollen extract. J ALLERGY CLIN IMMUNOL 2016; 137: 562-570.