多発性骨髄腫


多発性骨髄腫は、抗体産生を担う形質細胞が関わる血液がんの一種です。その症状や徴候(骨の痛みや腎障害、貧血など)について解説します。

統計

多発性骨髄腫に関する統計情報

 

16
全世界における推定患者数¹
7,591
年間の診断数(2019年、日本)ᵃ
6.0
人口10万人あたりの罹患率(2019年、日本)ᵃ
80
患者数が最も多い年代 (2019年、日本)ᵃ

どういった疾患なのか

多発性骨髄腫(Multiple Myeloma, MM)は、抗体産生を担う形質細胞ががん化する、血液がんの一種です

骨髄で形質細胞の単一クローンが異常に増殖すると、単クローン性のタンパク質が大量に産生される場合があります。これらの単クローン性タンパク質は、M蛋白またはパラプロテインとも呼ばれますが、それらの実体は単クローン性の免疫グロブリン(ガンマグロブリン)や遊離L鎖であることが多いです。

※遊離L鎖は遊離軽鎖、あるいはフリーライトチェーン、FLCとも呼ばれます

多発性骨髄腫は、脊椎、頭蓋骨、骨盤、肋骨など、身体のさまざまな骨領域に影響を及ぼす可能性がありますb。多発性骨髄腫の症状は、骨髄腫細胞の増殖(および骨構造や骨髄微小環境への影響)と、単クローン性タンパク質が他の臓器に及ぼす影響によって引き起こされ、骨折、腎障害、貧血、免疫機能の低下につながる恐れがありますc,d

多発性骨髄腫の症状および臨床上の影響

症状がさまざまで、加齢の影響と関連していることが多いため、診断が困難な場合があります

血液専門医やがん専門医への早期紹介により、患者さんの全生存期間と生活の質が改善される可能性がありますが、そのためには症状の早期発見と多発性骨髄腫の診断確定が必要です。

多発性骨髄腫の症状や合併症の多くは、がん化した形質細胞が周囲の骨や骨髄微小環境に及ぼす影響や、単クローン性タンパク質が他の臓器に及ぼす影響によって引き起こされます。多発性骨髄腫で多く見られる症状は、骨(臀部、脊椎、肋骨、頭蓋骨など)の痛みです。

骨髄微小環境の変化は血液細胞の産生にも影響を及ぼすため、貧血となったり、免疫系の機能低下を通して感染症にかかりやすくなったりします。骨髄腫細胞は骨構造にも大きな損傷を与え、高カルシウム血症や骨折リスクの上昇を招きます。

T産生された単クローン性タンパク質は臓器、特に腎臓を損傷する可能性があります。そのため、骨髄腫の患者さんの多くは腎機能障害も併発し、中には透析を必要とするほど深刻な障害となってしまう場合もあります2

Thumbnail photo of x-ray images being examined
骨髄生検や血液検査、骨の分析を含むさまざまな検査により、CRAB症状があるかどうかを確認します。

臨床的徴候

CRAB症状

形質細胞の増殖異常に起因すると考えられる末端臓器障害の症状は、多発性骨髄腫の診断基準のひとつです。この症状群は、それぞれの症状の頭文字をとってCRABという略語で表記されます。

高カルシウム血症 (HyperCalcemia)

血液中のカルシウム濃度の上昇

腎障害 (Renal insufficiency)

腎機能障害

貧血 (Anemia)

赤血球の欠乏

骨病変 (Bone lesions)

骨粗しょう症や骨折を含む骨の異常

SLiM基準

以前は、末端臓器障害の発症を契機として多発性骨髄腫の診断がされることが多かったため、診断の時点で患者さんの病状が悪化してしまっていました。そこで、末端臓器障害が発生する前に適切な処置を行うために、病態進行リスクが高く短期間で発症に至る患者さんを示すバイオマーカーが特定されました。これらの悪性腫瘍のバイオマーカーはSLiM基準と呼ばれています3

60% (Sixty percent)

骨髄生検で骨髄中の形質細胞の割合が60%以上であると明らかになった患者さん

軽鎖 (Light chain ratio)

血清における遊離L鎖(FLC)の比(腫瘍由来/非腫瘍由来)が100以上、かつ腫瘍由来の遊離L鎖が100 mg/L以上

MRI

MRIで骨病変が2つ以上認められる3

CRAB基準とSLiM基準を合わせて骨髄腫診断事象(Myeloma Defining Events, MDE)と呼びます。MDEが1つ以上認められ、単クローン性形質細胞が10%以上存在する(または生検により骨髄形質細胞腫、髄外形質細胞腫が証明された)場合に多発性骨髄腫と診断されます。
Photo of doctor examining results on a device

合併症

多発性骨髄腫の合併症

  • 免疫抑制に起因する頻繁な感染症
  • 骨に関連する疾患
  • 腎機能低下(骨髄腫腎、円柱腎症とも)
  • ALアミロイドーシスによる心不全/心臓障害e(ALアミロイドーシスは、多発性骨髄腫と併発する可能性のある疾患で、多発性骨髄腫と同様に単クローン性のタンパク質が原因となります)
  • 赤血球数の減少(貧血)4

多発性骨髄腫の診断およびモニタリングにおいては、測定の感度が重要となる臨床的状況が存在します

  • 多発性骨髄腫患者の約15%がベンスジョーンズ型多発性骨髄腫であり5、これらの患者においては完全型の免疫グロブリンではなく遊離L鎖のみが過剰に分泌されます。そのような状態で、腫瘍から分泌されるFLCがそれほど多くない場合、血清タンパク電気泳動法(SPEP)ではFLCが検出されない可能性があります。このため、国際骨髄腫作業部会(IMWG)のガイドラインでは、血清免疫固定法(sIFE)のほか、SPEP、血清FLC検査を必要に応じて組み合わせて実施することが記載されています。
    • FLC値が低くても、著しい腎毒性作用がみられる場合もあります。
  • ALアミロイドーシス患者では、血液中のFLCの値は非常に小さいことが多く、心臓、腎臓、肝臓などの臓器にL鎖が沈着することによって臓器障害が生じます。そのため、患者の診断とモニタリングにおいて感度の高い技術を用いることが非常に重要です。
  • 完全型の(インタクトな)免疫グロブリンが過剰に産生される多発性骨髄腫(IgG型やIgA型など)の患者では、治療などに伴って分泌される免疫グロブリン量が減った場合に、SPEPでは正確なモニタリングができなくなることがありますが、このような患者の多くはFLCを用いることでモニタリングが可能です。FLCを用いることでガイドラインに準拠した検査が可能となるほか、痛みを伴う侵襲的な骨髄生検を減らせる可能性があります。
  • 骨髄腫患者が治療を受けて治療効果がみられる場合、腫瘍量の減少に伴い単クローン性タンパク質(M蛋白)の分泌量も減少します。FLCはM蛋白の分泌量が少なくなった状態でも測定が可能であり、IMWGガイドラインにおける厳格な完全奏功(stringent complete response, sCR)の基準の一つに血清FLC比の正常化が含まれています。
  • がんが再発(再燃)した患者では、腫瘍が分泌する単クローン性タンパク質の種類が変化する場合があります。特に、”light chain escape”と呼ばれる再燃の形態では、単クローン性の完全型免疫グロブリンは増加せず、単クローン性のFLCのみが増加します。このため、多発性骨髄腫の種類によらず、FLCの測定による定期的なモニタリングが重要であると考えられます。

多発性骨髄腫と単クローン性ガンマグロブリン血症

従来のモニタリングにおける課題
Image of bone marrow cells magnified under a microscope
Thumbnail of a yellow lighthouse

iStopMM試験 – 多発性骨髄腫の理解に向けたコホート研究

革新的な研究の詳細を紹介

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血清遊離L鎖(sFLC)検出の重要性
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3rd Party Websites
a. 国立がん研究センターがん情報サービス がん種別統計情報 多発性骨髄腫(2024年4月)
https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/cancer/26_mm.html
b. https://www.cancerresearchuk.org/health-professional/cancer-statistics/incidence/common-cancers-compared#heading-Zero
c. https://www.nhs.uk/conditions/multiple-myeloma/
d. https://themmrf.org/multiple-myeloma/
e. https://www.amyloidosis.org.uk/about-amyloidosis/al-amyloidosis/symptoms-and-signs-of-al-amyloidosis/
References
1. Ludwig H, Novis Durie S, Meckl A, Hinke A, Durie B. Multiple Myeloma Incidence and Mortality Around the Globe; Interrelations Between Health Access and Quality, Economic Resources, and Patient Empowerment. Oncologist. 2020 Sep;25(9):e1406-e1413. doi: 10.1634/theoncologist.2020-0141. Epub 2020 May 7. PMID: 32335971; PMCID: PMC7485361.
2. Kariyawasan CC, et al. Multiple myeloma: causes and consequences of delay in diagnosis. QJM 2007; 100:635-640
3. Rajkumar SV, et al. International Myeloma Working Group updated criteria for the diagnosis of multiple myeloma. Lancet Oncol. 2014; 15:e538-e548
4. Bird SA & Boyd K. Multiple myeloma: an overview of management. Palliat Care Soc Pract2019; 13:1178224219868235
5. Rafae A, Malik MN, Abu Zar M, Durer S, Durer C. An Overview of Light Chain Multiple Myeloma: Clinical Characteristics and Rarities, Management Strategies, and Disease Monitoring. Cureus. 2018 Aug 15;10(8):e3148. doi: 10.7759/cureus.3148. PMID: 30345204; PMCID: PMC6191009.